ツォグトバータル外務大臣:外交の継続性はモンゴル固有の“お宝”

特集
naranchimeg199@gmail.com
2018-06-22 10:12:54
――現政権は、発足から7カ月の間、各国との関係強化等に向けて積極的な外交戦略を駆使しています。実質的な成果も表れ始めています。まず、外交路線等を含め、政府の対外政策に対する基本方針からインタビューを始めたいと思います。 
 外交の継続性はモンゴルの固有の「お宝」だ。それは、いかなる政権よりも大きな国益である。現政権はこうした継続性を実質的に保ちながら建設的かつ効果的な政策展開に力を入れている。過去の政権には、外交理念を遵守しない、勢力均衡の保持という観点でも少なからずの過ちがあった。ロシアと中国、「第三隣国」との関係でさえも、合意した約束を実現に移さなかった、もしくは現実的にできようがないことを約束してしまったなど、モンゴルの信用問題に関わる失態を起こしていた。一部人間の無責任な行為で、モンゴルは関係国の信用を失いかけたが、幸いに、本来の遊牧民ならでの「持ち前の明るさやもてなしの心」の国民性や遊牧文明への理解等などがあって、関係各国も信用回復へ前向きな姿勢を保っている。こうした揺るがない信用関係を基盤に関係強化及び連携協力の可能性を探るべきだ。我々が積極的に取り組まない限り、相手国がモンゴルを取り込まないだろう。モンゴルは、かつて一部の鉱物資源に関して中国への最大輸出国だったが、今は5位と後退している。モンゴルも、友好的かつ建設的な対外政策に重点を置かねばならない、との教訓を得ている。現政権は、こうした実態への対処として、各国との関係強化や協力拡大に向けて積極的な外交を展開。直ちに表れた成果は、欧州が策定した「プラック・リスト」からの解除である。
 
――首相及び外務大臣による中国訪問は、両国が抱く様々な課題が解決され、具体的な結果として現れるきっかけとなりました。中国との関係における障壁が撤廃されたとお考えでしょうか?
 両国は一時的に「心理面でより細かい相互理解」を必要とするまで関係が課題に見舞われた時期があった。中国訪問で、両国は直面した課題の解決に向けて合意し、段階的に取り組んだ結果、改善の兆候も表れ始めた。ガショーンソハイト国境検問所における車両通過、一日平均1000車両、大幅な改善がその一つである。通過改善は直接的に輸出増量に繋がり、マクロ経済効果や外貨準部高の増加等の具体的な数値に現れている。貿易と投資活動の好機は、ビジネス振興や景気加速への追い風となり、最終的に国民生活へその恩恵をもたらす。国民が抱く独立主権、安全保障の観点からの警戒心を分かるが、実態を脅威と捉えて過剰反応を起こし、孤立主義に走ると、逆に彼らがもっと貧乏になり、安全保障も衰えるだろう。今、定職や収入を失った失業者は出稼ぎで韓国渡航を夢見ている。これこそが脅威で、誰にも止められない。だから、国民が海外へ移住せず、国内で安心して暮らす環境づくりのため、健全な経済をつくらねばならない。中国訪問は、健全な経済の実現と景気加速に資する。具体的な成果も現実に現れている。
 
――首相は、中国訪問を「歴史的」と強調していました。その一環で、総額およそ50億米㌦に及ぶ融資・投資契約が結ばれたことは、やはりモンゴルの景気が回復したからと考えていいのでしょうか?
 過去を遡ると、これに匹敵するほどの商業向け融資・投資に関する契約が締結された首脳訪問はないのは確かだ。政府は、先方と約4億米㌦規模の緩やかな条件付き融資供与に関して合意し、大気汚染対策としてのゲル地区再開発及び中央下水処理所といったウランバートル市の都市機能改善向け事業に充てるとした。その一方で、両国ビジネス界はおよそ46億米㌦規模の融資契約を結んだ。世間の一部には「あくまで覚書」と批判的な見解があるが、ビジネス界の覚書とは交渉に交渉を重ねた結果を文書化して証明したものである。それと同時に、融資への関心と期待を寄せるよいシグナルになれるから、非常に重要である。経済学には「期待」という重要な概念がある。期待と景気は直接的に関わり、期待が大きくなればなるほど投資意欲が増したり、期待が小さいと投資意欲を失ったりする。中国訪問で、政府は非鉱山セクター振興に関する施政方針について情報を提示したりして投資誘致に努めた。 

――首相の訪ロは、近いうちに実施される方向で調整されていますが、同訪問に対する期待とは?
 外交理念で実施すべき訪問は、首相訪ロである。訪ロで、経済回廊、インフラ開発などの重点分野について協議する。モンゴルが進めるメガ・プロジェクトは、ロシアと関わっている。ロシアと中国は、貿易、投資、観光といった分野で連携強化を図っている以上、モンゴルも中国とロシアと政策調整を進めなければならない。だから、首相訪ロは意義が大きい。首相は「東方経済フォーラム」で両国首脳が協議した緩やかな条件付き借款、エネルギーやインフラ開発に関して具体的な内容を入れて対話する。モンゴルは、両国間の貿易・経済交流を一層深めることを重点に訪ロを調整している。
 
――「第三隣国」の政策は、モンゴルの対外政策上、重要な位置づけにされている。日本と韓国に対する公式訪問、アメリカ・ミレニアム挑戦公社によるコンパクト契約の最終合意、インドの外務大臣の訪モ等でモンゴルの外交はどれほど活性化したと思いますか?
 日本や韓国を訪問した際、韓国政府は5億米㌦、日本政府は8億5000万米㌦の緩やかな条件付き借款供与に合意した。インドの外務大臣による訪問で、両国はインド政府からの10億米㌦を財源とする製油所建設事業を急ぐこと、情報処理技術、教育、文化、医療といった幅広い分野での協力提携に合意した。また、「サイバー・アジア」共同会議の開催を決めた。アメリカ・ミレニアム挑戦公社による無償資金協力でおよそ3億5000万米㌦が供与される。上述の資金協力は、モンゴル経済困難を克服するに重要な支援となる。国の発展それ自体は安全への保障
 
――世間は、政府が借金して債務返済に充てようとしている、との見方をしているようですが、それについてどう思いますか?
 確かに、借金に借金を重ねると危ない。しかし、返済負担の大きい債務を緩やかな条件付き開発融資に置き換えることは必然的である。日本と韓国の政府による資金協力は開発融資に当たる。言い換えれば、上述した借金は国の発展に使われるべく、利息も低いものだ。実際、モンゴルの借りていた借金は金利が8~11%の高金利であったが、これに対して、日本政府の借款は金利0.7%、韓国は0.2%、との低金利である。
 
――多くの国からは巨額な融資、もしくは中国という一国による資金貸付ということは、経済的安全保障上の観点から属国になりかねない、との懸念があるようですが、経済的自立と独立を脅かしかねない具体的な脅威とは何でしょうか?
 モンゴルは各国からの開発融資を存分に活用しない限り、隣国に比べると開発に出遅れてしまう。開発遅れは死活問題だ。モンゴルにとって、発展こそが国家安全への保障だ。低い発展で弱い国こそは、他国からの支配を受けやすくなる。「モンゴルの独立主権・安全保障・自立及び発展の路線を尊重する。我々は戦略的なパートナー国」という共同宣言を中国の王毅外相と採択し、また、習近平国家出席もフレルスフ首相の訪問で「モンゴルの独立主権・安全保障、歴史的な背景を含め、モンゴルが志す発展の路線を尊重する」ことを改めて表明するなど、中国はモンゴルを戦略的なパートナー国とみなしていることを表明した。国際安全秩序は国際制度に根拠を置く。だから、各国は国連をはじめとする国際機構との協調を重視するわけだ。各国は国家の独立を承認した以上、それを集団的に守る責任を負う。モンゴルを取り巻く環境は、隣国の中国とロシアとの間で出来た長年の友好関係、協力に関する基本協定等がある。安全保障上の最も重視すべき要因は、外部より内部、すなわち就業かつ所得のあるモンゴル人である。モンゴル人は就業や所得、知識がある以上、我々の安全が保障され続ける。
 
――国際関係における「主プレヤー」らは、北東アジア安全保障秩序へ取り組むモンゴルの姿勢を「バランサー」として捉えて高く評価していますが、これの意義を教えてください。
 欧州から帰国直後にインドの外相との外相間協議があった。驚くことに、欧州も、インドもモンゴルのことを「北東アジア地域におけるバランサー役を果たす国」として相次いで表明したことであった。当該地域においてモンゴルの立場が率直に評価されたことで、我々もありがたい。モンゴルは核保有国や裕福な社会といった物理的に評価される側面が何一つないが、対外政策の一貫性と組織力、効率的な政策遂行といった面がある。第三隣国は、そういった側面を評価していると思う。
 
――国際社会は、モンゴルに対して国際通貨基金(IMF)の緊急支援を受け入れてから徐々に経済健全化に向かっていると、評価していますが、我々は今後、注意する点等とは何でしょうか?
 IMF拡大信用供与措置はマクロ経済安定化に向けた支援。長期かつ段階的な支援となる。一方、政府はウランバートル市が直面している大気汚染問題の解消、新規雇用創出、中小企業振興を重点分野として取り組んでいる。外務省は輸出拡大を図っており、非鉱山産業セクターの振興に焦点を当てている。
 
――貿易円滑化及び自由貿易協定についてのお考えは?
 モンゴルは欧州連合が定める貿易特恵付与国として既に認定されたほか、日本と経済連携協定を締結した。実質効果は分析次第、明らかになる。また、いくつかの国と自由貿易協定の可能性を探っており、当該協定が互恵的なのか、それとも一方の利益になるのか等の様々な面を含めて調査し、その分析次第で最終決断をする。というのは、ビジネス関係は誤算を許さないからだ。
 
――輸出産業の振興政策を統括する「モンゴル・エクスポ」プログラムが策定中と聞きましたが、それについて教えてください。
「モンゴル・エクスポ」の概要は、国産で輸出可能性かつ市場競争力のある製品の選定。実際の海外輸出は、品質規格、技術、販売戦略等の様々な面を総合的に考慮した上で行うものであって、決して容易ではない。モンゴル・エクスポは、決して国民の税金の無駄遣いではない。非鉱山産業セクター、即ち中小製造業の振興を図るもので、一定の従業員しか雇わない鉱山セクターと違って、就業者が最も多いセクターに向けている。つまり、国内事業者の振興は、新規雇用とそれに伴う実質的な所得の一面がある上、安定的な事業継続を図る狙いがある。


シルク・ロードは、間違いなくモンゴルの歴史的遺産
 
――ツォグトバータル外務大臣は、北京で開かれた「モンゴル・中国ビジネス・フォーラム」中、「シルク・ロード」に関連付けて「対モンゴル投資の可能性」を演説しましたね。それは、非常に興味深かったです。なぜ、モンゴルに対して融資しなければならないのでしょうか?
 中国が提唱する「一帯一路」構想に関連して巨額なマネーが動こうとしている。一方、モンゴル政府は「草原の道」構想を打ち出し、中国の「一帯一路」と調整しながら開発を図ろうとしている。なぜなら、モンゴルが必要としているのは、専らインフラストラクチャー整備である。モンゴルは、国内流通が充分に整備されておらず、その上人口密度が非常に低いという側面から国際的な開発プロジェクトによる支援等で開発を図る道しかない。「草原の道」はモンゴルを横断するアジアハイウェイにかかる資金確保を目的とするが、中国の「一帯一路」構想に合わせることで財源調達の糸口ができるわけだ。他方、ロシアと中国間の貿易流通高は、今後およそ2000億米㌦に上るという。我々は、モンゴルを経由するトランジット輸送サービスを提示し、経済利得につなげることができる。また、モンゴルを横断する鉄道で国産品の輸出を手掛ける。そもそも、中国の「一帯一路」構想は、「シルク・ロード」構想から生まれた。シルク・ロードはかつての遊牧民族と定住民族が互いに協力しない限りできようがなかったほど困難極まるものだった。何と言っても1万1000kmの距離があるからだ。シルク・ロードに平行して「ティー・ロード」がある。モンゴルを横断しながら交易をできたこのロードは、モンゴルへ物資を運ぶ重要な道となっていた。政府は、こうした歴史的な背景を踏まえて現構想の中に盛り込まれた「電力網や鉄道網」計画が国益に適い、実質的な国民の所得上昇を見込んでいるから支持している。
 
――近いうちに実施されるハイレベル訪問はありますか?
 欧州、南アジア、ロシア、アメリカへのハイレベル訪問が調整されている。
――ありがとうございました。
本社記者:N.ガントヤ