モンゴルは「所得倍増」が出来るのでしょうか

経済
gombosuren0625@gmail.com
2020-06-15 12:00:14

 モンゴルは民主で議会制の国であります。そのため一般市民やNGOが国家政策や社会経済政策などによく参加したり、それを鋭く批判したりします。

 この2020年1月にモンゴルのイノベーションクラブ(Innovation club of Mongolia NGO、シンクタンク)が「今後中長期にモンゴル人の実質所得を倍増する」を目標とする“世界平均所得のモンゴル人”という全国的提案を発信しました。イノベーションクラブの創立者は元国会議員のダワージャブ・ガンホヤッグ氏(モンゴル初の国費留学生として日本で教育を受け、2004~2016年に3期連続国会議員、2012~2014年にモンゴル鉱業大臣、2004~2016年にモンゴル日本友好議員連盟会長を勤務)、元駐日モンゴル国全権特命大使のレンツェンド・ジッグジッド氏(1996~2000年に一等書記官、2004~2006年に公使、2006~2011年に駐日モンゴル国全権特命大使、2014~2016年にモンゴル国鉱業大臣)、日本国政府ODAで建設されたゴビ・カシミヤ工場の主任技師&副社長等を長期間勤務したチョイジルジャブ・トゥメンバヤル氏、経済学研究者のチュルーンツェレン・オトッゴチウルー氏(ドイツで経済学修士号取得又は博士課程在学中)、経済学研究者のネメフバヤル・エンフバヤル氏(京都大学経済学部の経営学学士、京都大学大学院経済学研究科の国際経済学修士号取得1999~2004年)、国際経営学研究者のバヤルサイハン・ジャフウラン氏(スイス北西科学大学国際経学学士) 等であります。

 この提案の目標は「今後10年以内にモンゴル国経済(GNP)を400億米ドルに、1人当たりのGNP(実質国民総生産)を1万米ドルに、よって平均月給を1千米ドルに引き上げることであります。1人当たりのGNPが1万米ドルというのは 現在の国際平均となります。そしてこの目的のスローガンを「世界平均所得のモンゴル人」と言っています。

 現在(2019年末)モンゴル国経済(GNP)は137億ドル、1人当たりのGNPは4200米ドル、平均月給(これは国家公務員、国立義務教育学校の教員や国立病院の医師等の平均給与となります)は前記の1人当たりのGNPの1割に近く400米ドル程度です。前述と違って現在の民間企業の中間層マネージャー職の平均給与は800米ドル位であります。上記提案が国家計画となり、実施されればモンゴル人の平均月給が1千ドルに達し、現在海外で労働・暮らしている約20万人の若手が母国に戻り、モンゴル国の発展に大きく貢献できると推測しています。調査によると2011年から2020年(国のマクロ経済計画上)までの10年間でトゥグルグ(モンゴル通貨)で表した経済成長は平均6.3%であったが、ドルで表した1人当たりのGNPは前記の10年間は4100米ドル前後で変動しており、ほとんど実質成長が見られませんでした。その上この10年間は米ドル対モンゴルトゥグルグの購買力が2.2倍以上下落し、そのうち2016~2020年の4年間は米ドル対モンゴルトゥグルグの為替レートは40%も落ち、日常品に輸入品の割合が高いモンゴル家庭の生活に大きく影響しています。世界銀行の調査によると現状では貧困層の割合は全人口の3割に達し、3人の内1人が貧困の状態となっています。トゥグルグで表した場合、今後モンゴル国の経済が成長していても、米ドル対モンゴルトゥグルグの為替レートの下落を市場的な方法で安定させなければ全人口の5割、2人の1人が貧困層になるかもしれません。

 イノベーションクラブはもし上記のような不景気が続けば「モンゴル国民の政府に対する信頼が一段と落ちている現在、社会的に不安定な状態になる可能性があると考え、防止としこの提案、目的を米ドルで表しました。

モンゴル国の経済成長率は過去10年間平均6.3%でしたが、この実績の経験を踏まえ今後10年間の経済成長率年平均8.3%実施可能と見なし、中長期における高度経済成長期と呼称し、社会的概念は高度成長期となります。

この目標の実施において最も重要なのは米ドル対モンゴルトゥグルグの為替レートを市場的に安定できるかとどうかが勝負です。

 彼らは上記の全国的提案作成の際に国内の社会経済に関する過去10年間のデータを処理し、それを基礎にするほか、アメリカ、ドイツ、日本等の先進国の発展の経過も詳しく研究しました。例えば1960年頃に池田内閣が策定または実施した国民所得倍増計画に関する本や出版書物等を詳細に研究しました。イノベーションクラブはモンゴル国民総生産(GNP)をこの先10年以内に400億米ドルまで拡大し、この期間で一人当たりの実質国民総生産を1万米ドルまで倍増させて国民の生活水準を世界平均並みに到達させるという経済成長目標を設定しています。そしてこの目標を実施するためにこれからの10年以内に経済成長率平均を8.3%と推定しています。彼らは内政と外交を結びつけることで、完全雇用の達成と国民の4分の3以上(所得の中間層)が世界平均並みの生活を送れる福祉国家の実現、国民各層間の所得格差を拡大させずに発展することを目指しています。さらに減税(安定な税環境整備)、社会保障、公共投資を三本柱として高度経済成長を推進して行くと考えています。

そしてこの所得倍増する目標が政府計画となり実施が決まれば国民所得倍増計画になるとみなしています。そのため政府は次の原則を守らなければなりません。

・国内外の投資家に対し透明で持続可能な競争力のある環境を整備する。

・政府の現在の経済参加をなるべく減らし、30%を超えないようにする。政府は民間企業が出来る事業に一切参加しない。

・今後中長期にはモンゴルの経済のエンジン分野は鉱山分野であるとことを承知し、この期間内にはこの分野において透明で持続可能な競争力のある法整備やその他の環境整備に常に注力する。

・この目標を官民で実現する組織を設ける。

具体的処方としては次の六つが挙げられる。

*道路(中央道路及び国際道路)、電力、鉄道、港、工業用水など相対的に遅れた社会資本の整備。

*輸出品詳細には鉱山及び家畜原料の加工または製造商品の輸出量を今までに無いスピードで増加させる。

 産業構造の高度化、すなわち重化学工業への誘導、生産性の高い分野への労働力移動。経済発展の優先的順位は鉱山採掘、農牧業、加工&製造産業(鉱山&家畜原料を先端技術で加工し、半製品又は完成品の製造と輸出)、再生エネルギーやエネルギー生産力の向上・輸出、観光産業等。鉱山分野の税類の収入からノルウェー基金に似たような基金を作り非鉱山分野の発達の財源として利用する。その上、産業競争力の向上のため先端技術、第4次産業革命、情報通信及びデジタル技術の導入と普及に努力する。

 *貿易の自由化

 特に輸出の推進

 モンゴル国は人口が少なく、市場が小さいためモンゴルの経済拡大にはこの貿易の自由化を一番重要とします。そして所得倍増計画とこの自由化は車の両輪をなすー体の政策となり、技術革新(イノベーション)が高度成長の鍵となります。

現在モンゴルの民間銀行の貸付け利子は世界において比較的高く、年間平均18~24%であるため、これが国内企業の発達や国際競争力に大きなマイナスとなっています。この高い利子を中期に市場的な方法で、例えばこの分野の市場における競争を支援したり、その銀行法人を株式会社にしたり、中央銀行の政策利子を段階的に削減したりし世界並みにしなければならないとみています。これ以外にもう一つの大きな問題は、米ドル対モンゴルトゥグルグの為替レートの急激な下落であります。この問題解決のために輸出商品量を今までにないスピードで増加させるほかに、外貨準備や金の備蓄を増やし、国の収支は現在マイナスであるが、これを中期にプラスになるような処置をとることなどが必要と見ています。

 *文教及び科学技術振興政策

 文教及び科学技術振興はすべての施策の前提とします。医学を含めた理工科系学生の拡充に重点を置き、現在のこの分野の学生の人数を倍以上増やします。産業部門の技術者を増やすために技能労働者の拡充を行います。このような政策の実施が高度成長の基盤となるとみなしています。今までに消費とみなされてきた国家予算の教育費を経済成長に資する教育投資として位置づけます。根本的には“人作りは国作り、物作りは産業国家作り”という社会的概念で高等専門学校や大学のカリキャラムを充実化します。

 そしてモンゴルは隣国(中国とロシア)と並行に第三隣国の日本国、韓国、アメリカ、ヨーロッパのドイツなどの国々と科学技術事業における協力協定を締結して行くべきとみています。

 現在のところモンゴル国は日本国だけと自由貿易協定(EPA)を締結していますが、このような活動は隣国の世界経済大国の中国をはじめ迅速に進めるべきです。

 *国土総合開発計画

 人口、資源、位置、現在の国内における競争力、インフラ整備、港等の要素の基でそれぞれの県或いは県を合わせた新国道開発計画を作ります。新産業都市建設の促進又は工業整備特別地域の促進等にに関する法整備が必要になります。

首都ウランバートルまたは地方の町には住宅ローンでアパートや一戸建て住宅の建設をどんどん進めます。

 *社会保障とその他

 中小企業の近代化。二重構造の緩和と社会的安定の確保。経済成長の背面に噴出が予想される産業構造の転換に伴う失業、資金格差等の問題への対処とその社会福祉と福祉政策の確定。高度成長のひずみに物価上昇、公害及び自然保護等の問題を先見して具体策を計画またはそれを実施すべきとみています。

 イノベーションクラブはこの“これから中長期にモンゴル人の実質所得を倍増することを目標とする“世界平均所得のモンゴル人”全国的提案が政府の計画となり、実施された場合は、最終的にモンゴルの民間経済の潜在的エネルギーを巧みに引き出しモンゴルミラクル(Mongolian post-covid19 economicmiracle)と言われる高度経済成長を遂げられるとみています。

 この高度経済成長の目標に到達のために実施すべき政治的コンセンサスが必要な大規模のプロジェクトを「添付1」で一覧しています。

この前記のプロジェクトのリストの中の鋼鉄のプロジェクトを実施するだけでモンゴルのGNPは倍以上拡大ともいえる数値が出ています。モンゴルはコークス石炭または鉄鉱石で世界の上位になる埋蔵量を持っています。現在はコークス石炭を原料のままか、洗浄した形で中国へ輸出しています。鉄鉱も原料のままで輸出しています。この輸出の売上はおよそ25億米ドルです。

 ここで上記のコークス炭と鉄鉱を合わせて加工し鋳鉄又は鋼鉄を製造して輸出すると、その売上は5割~6倍以上も増えると見込んでいます。結果的にはモンゴルのGNP 335億米ドルとなり既に一人当たりのGNP が1万米ドルを超えることになります。このプロジェクトに関してモンゴルのNGOは中国の製鉄連合と覚書を締結しています。モンゴル側はこのプロジェクトに日本や韓国などの第三国の参加も必要と見ています。モンゴルでの製造鋼鉄を日本へ輸出の場合はEPAで税金がゼロになるメリットもあります。

 中長期にモンゴル人の実質所得を倍増する事を目標とする「世界平均所得のモンゴル人」という全国的提案が達成された時のマクロ経済パラメーターを作成済みです。

5月21日にモンゴル国商工会議所、雇用主連合会、価値創造者支援協会(主に中小企業支援NGO)、モンゴルのイノベーションクラブが共同記者会見を開催しました。

当記者会見では、モンゴル国政府、国内外の投資家、メディア分野、科学研究者、政党、NGO、パートナー国、国際機関、モンゴル国民に対し「モンゴル人の実質所得を中長期に倍増」を目標とする「世界的平均所得のモンゴル人」 全国的提案の支援と協力を呼びかけました。

添付1

 中長期における高度経済成長政策の範囲で実施すべき政治的コンセンサスが必要な大規模のプロジェクト一覧

1.新空港に基づいた貿易、サービス、金融機関、物流の経済自由地域

2.再生エネルギーやエネルギー生産力の向上・輸出

3.ロシアから中国へモンゴル経由で天然ガスパイプラインを設置する

4.石炭深加工(石炭をガス化し合成天然ガス生産、石炭を液化し燃料(ディー ゼル)生産または石炭化学産業開発)

5.炭鉱の炭層からメタンガスの抽出、利用プロジェクト

6.Ovootのコークス炭炭鉱(Khuvsgul県)を運転開始

7.政府からの鉄道に関するプロジェクトを段階的に実施する

8.銅製錬又は銅製品、鉄鋼から鋳鉄又は鋼鉄生産の大規模プロジェクト

9.Zamiin-Uudでの経済自由区域を活発化させる

10.家畜農業分野において加工工場を支援しカシミヤ、肉製品、乳製品、革製品 の輸出を急激に向上させる

11.Dornogovi県のUlaanbadrakhソムに位 置するウラン鉱床で原子発電所の燃料生産プロジェクトをこの分野にあたる 世界的リーダーのAreva、Mitsubishi社と共同実施(現在は隣国のロシア、中国は新しく設立した原子力発電所の数で世界トップを争っています)。

12.レアアース鉱物分野への投資促進

13.Kharmagtaiの銅鉱床の運転開始

14.Gatsuurtの金鉱床の運転開始

15.石油加工工場や石油化学産業団地を作る

                                                                     モンゴルのイノベーションクラブ寄稿