ビャンバスレン元首相：体制転換は極めて厳しい局面だっ

jp_dotood@montsame.mn

2015-09-21 14:00:05

1990年7月に実施された初の民主総選挙後、モンゴル人民共和国最後の政権において閣僚会議議長として抜擢され、首相を務めていたD.ビャンバスレン氏に当時の国内外情勢や総選挙実施への転換経緯などについて話しを聞いた。

－－一党独裁政権下のモンゴルで、自由かつ民主的な選挙の実施経緯については？

当初は、モンゴルはソ連を主導とする社会主義陣営に属していたが、1980年代から事実上、東側陣営が方向性や競争性を失い、変貌が余儀なくされる中で、時代が90年代になると、東欧において体制変換などの民主的な動きが起き、その波紋で連邦からバルト諸国やグルジアの独立運動などがあり、ソ連も揺らぎ始めた時代であった。この時、自主性に欠ける経済で東側陣営へ過剰に依存するモンゴルをいかに立て直すか、また、いかに安全保障を確保するかが大きな課題だった。1989年からモンゴル民主化運動が組織化され、次第にモンゴル民主同盟となり、度重なる民主デモで彼らの要望などが表面化し始めた。当初、彼らは人民の社会主義や人民革命党の改革を掲げて、いわゆる体制批判として運動を展開し始めたが、それが次第に体制転換を目指す運動へと方針が変わった。それはソ連の衛生国と言われる当初の状況を打開しようとする試みだった。北側のソ連がいくら衰えたといえ、政権中枢には共産党があり、社会主義への信念が健在していた。一方、南側にある中国とは国交がまだ回復されていなかったがために、中国も共産主義国家であった。ただ、この中で体制転換は極めて厳しい局面だった。1990年3月に起きた政治主導部総辞任の出来事が歴史的に意義があった。それはモンゴル民族が劇的に対立することなく、団結による協調の上で、社会変革を成し遂げたことだ。そして、政治運動から新たな政治政党などの新星勢力の誕生とともに、7月29日に自由選挙が実施された。この自由選挙による複数政党制の導入までが最高に緊張が高まった時だ。例えば、4月27～28日にかけて民主化運動が頂点に達した時、モンゴルが武力行使による介入を行うのでは、と諸外国が恐れたようだが、実際問題として政権側には武力行使などの意思はなく、むしろ対話による平和的な解決を図る構えがあった。私はモンゴルにおける平和的革命の特徴が挙国一致だったのではと思う。

――当初、モンゴル社会転換に対してソ連の影響力行使があったのでしょうか？

　社会主義体制の行き詰まりが以前から、その中枢から指摘されていた。1988年、社会主義における諸課題調査のために各国の共産労働党による研究委員会という閉ざされた委員会が発動され、私は同委員会におけるモンゴル代表を務めたが、個人的見解で当初のソ連、東ドイツ、チェコスロバキアの体制維持の意向に対してハンガリー、ポーランド、ブルガリアが社会主義が行き詰まったという立場をとっていた。この時から、ソ連側がモンゴルを冷静に見つめていたのだろう。ソ連指導部はモンゴル政府もソ連と同様な体制改革の行動をとってほしいと考えていたようだが、モンゴルが離れて、自立するとは思ってもいなかっただろう。1990年になって、民主化運動がもっと激化する中で、両国外交の規範性、モンゴル民族伝統性などが取り上げられたからモンゴルの主張がようやく明確になったと思う。特に、1990年3月4日のデモでは、ソ連に対して負債問題、政治問題に関して要求があった。要求書を受け取ったソ連大使に深い印象を与えたのだと思う。おそらくソ連指導部がモンゴルで反ソ連の考えが広まったとの認識だっただろう。一世紀もの付き合いからそう簡単に離れてしまうことは信じられなかったと思われる。1990年12月26日、ソ連の共産党政治指導部がモンゴル情勢について議論したそうで、同議論に秘密警察機関兼対外諜報機関（KGB）からモンゴルに関する報告があった。同報告からモンゴルのソ連圏脱却に関して、自立の場合に制裁を内容とする79/13という秘密決議が採択された。従って、28日から物々交換による対モンゴル貿易を取りやめ、モンゴル輸出の燃料や一般物資に対して制限し、モンゴルからのカーペットに対して驚異的な1500％の関税などの制裁を行った。

――ソ連指導部からモンゴル指導に対しての影響とは？

ソ連指導部はモンゴル情勢に対して長期に渡って準備し、圧力をかけ続けた。1988年12月21日に開催された第5回党大会が主に党幹部交替を企むものであったが、失敗に終わった。さらに民主化運動を通して、モンゴル政府に影響を及ぼそうとした。一方、79/13決議の直後、つまり27日にソ連大使は人民革命党のG.オチルバト党首に対して決議書を読み上げてからポケットにしまい、そのまま席を後にしたそうだ。要は、対モンゴル制裁の意思表示だったのだろう。

――民主的選挙の実施と選挙制度の採用への経緯については？

4月、政治的やり取りが非常に活発に行われた。当時、私は閣僚会議副議長（副首相）を務めていたため、外国への訪問などで選挙準備には立ち会わなかった。6月11日、欧州・日本への訪問を終え、帰国し、そのまま選挙に突入した。今度の選挙がそれまでと違って、各勢力が自らの公約を通して票の競い合いで、もっとも多く票を獲得したものが大会議に選出された。当時の政治指導部は不当な選挙介入を行おうとしなかった。つまり彼らの意向は、国民が立候補者とその理念や政策などに基づいての投票行動だった。初回選挙の投票率は高かった。民主勢力が全票数の40％、政権党が60％を獲得して選挙が終了したが、民主勢力の40％は大議会における15％の議席しか得られなかった。この場合、連立政権を組むことが極めて難しかったが、7月31日に人民革命党のオチルバト党首が挙国一致政権の意向を表明したのが、政界のムードをがらりと変えた。そして9月に大議会が開幕した。

――連立政権誕生の経緯とその政権が直面した課題とは？

連立政権とは、各政党がそれぞれの公約を組み合わせ、交渉などの政治的なやり取りをして、最後にそれぞれ責任を負うべきだが、モンゴルは連立内閣の経験に乏しかった。私に対して人民革命党幹部らから首相指名があって、議会も通過した。私も経済困難の深刻さを十分に認識したため、連立政権ということ踏まえて、各勢力体制からなる16名の大臣や副首相による政権編成を行い、連立政権を発足させた。当時の閣僚らとは所属政党への忠誠心というより、国のため団結して共に行動すると約束を交わしていた。

――当時、政権運営に諸勢力が携わったといえ、政権内対立がなかったが、経済状況は非常に深刻だったのでは？

政権内では改革及び民主化、主権確保及び世界諸国との新たな外交の方向で一致団結ができた。だが、経済情勢がさらに深刻化しつつあった。ソ連からの燃料輸入が絶たれ、食肉輸出が不可能となっていたが、ソ連崩壊とともに状況はますます深刻化した。もう一つ障害となったのが、法的環境の再整備であった。要するに、全ての法的規範が機能不全に陥り、政権として再整備を図るしかなかった。他方、政権の推進改革等に対して、地方から度々反発があった。その都度、面と面とを向かい合わせ、対話によって解決していた

――25年前の初回民主選挙の成果を振り返ってどう評価しているのでしょうか？

民主選挙はモンゴル社会が生まれ変わりの始まりだったとの認識だ。選挙実施はモンゴル民主革命が収めた大成果であり、その結果として新憲法が制定された。選挙結果は大会議で15％の議席を獲得したにもかかわらず、小議会において得票比率によった議席配分により全体の40％の議席を占めたのは、大衆も民主勢力に期待を寄せたということだ。

――初回選挙からいくつかの総選挙が実施され、選挙制度も変わりました。それらの総選挙に対してのご感想は？

選挙のやり方がかわってしまった。旧体制下でも、立候補者の選定が非常に厳しく、知名度などの要素が重視されていた。だが、今は党の立候補選定が全くというほどその機能を果たすことなく、むしろ立候補と当選するのは誰でもよしとなってしまった。モンゴル政治は少数による寡頭政治となりつつある。前回の選挙から小選挙区比例代表並立制が導入されたが、比例代表制の欠点も暴露されてしまった。モンゴル民主主義は理念上、行き詰まったと思う。

――2016年総選挙までの時間があと一年も足らずとなりますが、どうみているのでしょうか？

モンゴル政治について視点を変えて、見る時が来たのでは思う。25年間に良きにつけ、悪きにつけ様々なことを経験し、いろいろな教訓を学び、モンゴル政治は画期的な局面にあると思う。第二の革命が過言ではない。要するに、デモなどの反政権運動からではなく、むしろ議会内から、即ち行政法、公職に関する法律、責任に関する法律、政治政党法などに、行政府改革の兆候が現れたと思う。政治政党法の基本原則に従って、政治活動すれば政党がその責任をもっと自覚し、国民にとって近い存在となるはずだ。私は次期総選挙に対しては非常に楽観的だ。

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