三菱UFJ銀行のウランバートル事務所菊地一好所長: 今後、モンゴルがサスティナブルな発展を成し遂げる重要なプロジェクトを積極的に支援していきたい

経済
l.naranzul@montsame.gov.mn
2023-05-29 13:59:53

モンゴルの経済成長を支えた世界のメガバンク三菱UFJ銀行のウランバートル事務所の菊地一好所長にモンゴルの金融とビジネス環境についてインタビューを行った。


三菱UFJグループは、50ヶ国以上に2400支店を有する世界有数の非政府金融機関であり、201312月にウランバートル市に同行の事務所を置いた。事務所開設以来、同行はオユトルゴイ鉱山事業の投資をはじめ、日本からの鉱業機械や設備輸入の支援、モンゴルの金輸出における前貸などの大規模な事業に対する融資と、2013年はモンゴル開発銀行(DBM)発行のサムライ債券への投資にも参加し、モンゴルの経済発展に貢献してきた。さらに、社会貢献の観点でモンゴル国立大学の優秀な学生104人に三菱UFJ銀行の奨学金を授与してきた。同行は、ウランバートル事務所を10年目の節目の6月に閉鎖するが、今後もモンゴルの経済発展に資するサステイナブル・ファイナンスのサポートを継続していきたいと言う。



 

――世界のメガバンクMUFGがウランバートルに駐在した10年間、主に取り組んだご活動からお聞きしたいと思います。

2013年当時、モンゴル国は二桁の経済成長であり、資源開発事業への金融支援の参画に対する期待に加え、日本企業のモンゴル進出支援という観点から邦銀としてのビジネス機会が見込まれ、ウランバートル事務所を設置した。

当時は、モンゴルの国家事業のオユトルゴイ鉱山事業への融資、モンゴル銀行(BoM)向け金の輸出支援やJBIC保証によるモンゴル開発銀行(DBM)向けのサムライ債券発行の支援、エルデネス・グループ子会社のシヴェー・オヴォー社向けのバイヤーズ・クレジットなど資源開発への金融支援のみならず、モンゴル地場銀行との貿易金融など各種の協働を行ってきた。

また、社会貢献という観点では、モンゴル国立大学向けの奨学金を100人以上にのぼる優秀な学生に供与してきた。


――アジア経済の中核点である香港や上海にも駐在したご経験から、世界市場におけるモンゴルの魅力的な所、ポテンシャルは何だと思いますか?

やはり資源の豊かさは魅力的だと思う。鉄鉱石、銅、石炭、金、レアメタル、シリカ等国内各地域で開発事業が目白押しである。このような開発事業の実現が外貨獲得源になり、国のバランスシート改善、格付向上などの好循環を生み出す。そのような観点で、オユトルゴイ鉱山の地下掘り開始に伴う今後の輸出拡大等は大きなポテンシャルがある。さらに、石炭から水素を確保するような先進技術の導入も検討されている。このように持続可能な開発を確保できる発展戦略を構築していくこともとても大事だと考える。


――モンゴルの発展戦略を構築する上で、金融業の課題と改善点についてどのように思われますか?

金融は産業育成を支える血液のようなもので、血液循環を良くすることで、国の産業と経済発展に大きく貢献する。その意味では、モンゴルが如何にして発展するか、ということを考えるのが金融業界の使命だと思う。

上海や香港、また欧米と比較し、モンゴルの重要成功要因(KSFKey Success Factor)が何か? 中国は、製造業の呼び込みを中心に技術立国化を目指し、保税区政策による貿易地区を設け、世界大企業に進出を促し、それを自国の財産にして発展を続けてきた。例えば、自動車業界の発展には過去の海外企業の技術移転が大きく影響した。

香港は「世界の貿易ハブ」を位置付けに貿易と金融モデルで発展を遂げてきた。

では、翻ってモンゴルのKSF(目指す姿)は何だろうか?資源輸出か、製造業か、それとも農業・食料か、或いは貿易立国かを考えるべきである。輸出立国を目指すとしたら中国・ロシアに囲まれた地政的リスクが問題となる。農業・食料においては厳しい気候の中、一年中の安定生産を解決する必要がある。製造業が殆どない中、技術立国としての成長モデルに課題があると思う。

モンゴル政府が確りと成長戦略を可視化し、そのプロジェクトの優先順位付けを行い、政府省庁間で連携して責任所在の明確化と継続的にPDCA(計画・実行・評価・改善)が回るシステム構築を行う。

成長戦略のビジュアル化、政府予算で賄えるものと外部調達で賄うものを明確にし、どの省庁も同じ方向を向いて、積み上げ型で一歩づつ議論を行い、国家の成長戦略を支える官民がワンチームとなり、それを支える持続的システムを構築することで投資家や金融機関のサポートを得られ易い環境を作れるのではなかろうか。

今は、国際通貨基金(IMF)を中心に世界銀行(WB)や日本国際協力機構(JICA)が官として支えているが、更なる成長の為に「民間」の支援をどう引き出すかが重要である。そのためには、上記のようなフレームワーク構築が重要だと思う。それがあって初めて民間の海外投資家として当行のサポートできる事業等も明確になってくる。


――貴行はサムライ債券に融資したが、今後もモンゴルに対する大型融資は想定でしょうか?

サムライ債の融資は政府向けであったため、モンゴル政府内で充分に議論を行い重要事業案に利用され、経済発展に貢献できているものと期待したい。

今後は、モンゴル国の持続可能な成長に必要で且つ重要なプロジェクトに対し、積極的にサポートしていきたいと思う。ウランバートル事務所は撤退するが、グローバルバンクとしてはモンゴルをマーケットとして捉え、オフショアからサポートしていくスタンスに変わりない。そこで、やはり前述のKSF構築に加え、脱炭素と持続可能な開発(SDGs)に向けた戦略がポイントとなる。加えて、大型プロジェクトを金融面からサポートをしていくために、官民連携も重要である。

例えば、日本のプロジェクトであれば、日本の技術力を輸出する商社や企業とそのバック・ファイナンスを支える金融機関、借入人と、そのプロジェクトで裨益を得るモンゴル政府のサポートを踏まえた日本政府のサポートと両国の官民の連携が非常に重要になってくる。


――今後のモンゴルに対する協力において具体的な取り組みはありますか?

例えば、カナダのペンション・ファンド協働のGAIAプログラムで、モンゴルの持続可能なグリーン開発事業に対するサステイナブル・ファイナンスのサポートを実施予定である。

同プログラムでは、モンゴルを含むエマージング25ヶ国を対象に低利で長期間サポートできる利点があり、当行はファンド・エージェントを務める。

今は、まさにモンゴル政府と協議し、案件ソーシングを実施している。

提案プロジェクトが将来の脱炭素社会におけるモンゴルの立ち位置を優位にしていくために、どの程度必要か等、その資金をまさに意味あるものにしてもらいたいと思う。そこで、改めて強調したいのは、やはり官が主になり両国の経済面における発展戦略を描き、それを民間がサポートしていく協働体制作りが急務だと考える。その上で、経済交流を活性化させ、それが日本・モンゴル経済連携協定(EPA)の活性化荷つながる等のWin-Winの仕組み作りを検討していく必要がある。


――銀行マンとして、モンゴル・日本経済連携協定の実施状況と促進についてどのように思われますか?

EPA活性化という観点で、いつも問題になるのはモンゴル企業側がEPAによるメリットを享受できていないと言う点。日本とモンゴルの輸出入の関係で見ても、モンゴルは輸入過多であり、モンゴル政府の期待は国の輸出を活性化するためEPAをもっと活用してほしい、と言う事だと思う。その為には、付加価値のないものを制度面だけでフィージビルにすることは難しいと思う。輸入国(日本側)が製品の品質・付加価値等のメリットがある商品製造のビジネスモデルの中でEPAを活用することだと考える。


――これからモンゴルへ投資したい、あるいは進出したいという日系企業に対するアドバイスとすれば・・・

当地には、日本商工会という経済団体があり、また、JICAモンゴル事務所をはじめ弁護士・会計士も多く、日本とモンゴルの関係に於けるビジネス構築に精通した方々が多くいる。進出を検討する際に、是非、上記の関係者にアクセスし、成功事例・失敗事例を学んで頂きたいと思う。当地でのビジネス運営上に途上国で起こりがちな問題に直面した場合、どう対応できるか十分想定するフィージビリティスタディを行い、進出を検討頂きたいと思う。


――菊地所長は旅行が大好きな方だとお聞きしましたが、ちょうどコロナ禍のモンゴル駐在であるなか、モンゴルの自然を楽しめましたか?モンゴルで一番記憶深い思い出と言えば・・・

2021年の2月赴任時は、ホテルで3週間、その後自宅で2週間と1ヶ月以上も3度の食事が部屋に運ばれる隔離生活となった。日中はインターネットで業務を行ったが、現地代表として最も重要である政府関係者や現地進出の日本政府や企業との連携が物理的に全くできず、とても辛い期間であった。やっと外出できるようになってもロックダウンと隔離規制の連続で買い物は許されても、スーパーでは野菜、魚、卵、牛乳がなくとても大変な時期であった。

ようやくコロナが終息され、当地の駐在員の中で、仕事の傍らモンゴルの大自然を楽しめた自負がある。皆さんは綺麗な大草原にある観光施設に行き、モンゴルゲルを楽しんでいるが、そう言った観光名所はもとより、一回でなく、各場所を夏と冬にそれぞれ訪問し、季節が違う中での景色の違いをも楽しんだ。

その中で思い出に残る場所は、夏のヒャルガス湖、冬のフブスクル湖である。国内旅行中に車のタイヤが泥にはまった時は、地元の親切な遊牧民に助けてもらい、その素朴さ、親切さがとても印象に残った。アクティビティーとして、夏に行ったシシゲド・キャンプ場での幻の魚(イトウ)釣りは最高の思い出であり、また、マイナス30度の雪山であるヘンティー県アスラルト山登頂がとても記憶に残る。日々の活動では、乗馬は自転車に乗るような感覚で楽しめ、モンゴルの自然豊かさを満喫できた。




――近々日本へ帰国されるとお聞きしましたが、これまでのモンゴルにおけるお仕事の成果をどのように受け止めていますか。

これまで述べた通り、前半はコロナ禍で殆ど機能せずだったが、昨年の2022年はモンゴル国と日本国の外交樹立50周年に当たる記念年であった。そこで、政治・文化・経済面での協働を進化させるべく様々なイベントが行われ、MUFGとしても積極的に参加し、セミナー等を開催した。またモンゴルの大手国営企業との協定検討など日本企業の利益を考え頑張ってきた。

モンゴルに貢献できた数少ない成果かと言えば、ソブリン債の借り換えに関して邦銀として初めてマンデートを受けたこと、モンゴルの政府関係者とのネットワーク作りを強化し、重要プロジェクトが可視化され、今後の検討の素地ができた点、後は、将来的に、奨学金を受けて頂いた、可能性に満ち溢れる若い世代に活躍してもらえると嬉しい。


――インタビューに応じて頂き、ありがとうございました。今後のご活躍をお祈りします。