D.ガンオチルBOM主任エコノミスト:経済成長は昨年同期比7.6%増加であってもインフレとデフォルトの2大リスクを防ぐ政策は継続すべき

経済
b.undrakh@montsame.gov.mn
2023-05-16 10:58:19

モンゴル銀行(中央銀行、BoM)のD.ガンオチル主任エコノミストに国内金融業の現状について確認した。

 

――2023年第1四半期時点の対外貿易と国際収支が黒字に転じ、トゥグルグの相場上昇とインフレ低下の傾向が見られます。これはコロナ後の景気回復でしょうか?一般的に、景気回復をこれら指標で言い切れますか?

景気回復は国内総生産(GDP)成長率で分かる。2023年第1四半期時点の経済成長について来月発表予定だが、前年同期比7.6%の成長が予測された。税関総局統計によると、同期の石炭輸出における収入は94%増加している。年初3ヶ月の輸出総額は37億米㌦に上った。銅精鉱と銀メッキのない金を除く他原材料の輸出は91%も増加した。たとえば、硬質炭からの外貨収入は2.3倍、亜鉛鉱精鉱1.4倍、蛍石は2.8倍の増加となった。今年は鉱業部門に回復が見られ、輸出量増加に伴い売上高が改善された。運輸部門は、鉱業部門に伴い成長している。


――対外貿易の18億米㌦黒字化に対し国際収支は約2億米㌦に留まっています。輸出収入増加に伴い外貨準備高も相応に増えるはずでは・・・

マクロ指標でみると、貿易収支は18億米㌦の黒字となった。これは、前年同期より16億米㌦上回る。貿易収支の黒字は外貨準備高の増加を伴うはずだが、国際収支が18900万米㌦増加に留まり、差額の11億米㌦でサービス部門の損失を補償している事になる。観光と教育部門は赤字であり、支出は依然として高い。

景気回復の主要因が石炭輸出を含む鉱物原料の輸出による収入増加ではあるが、その背景には中国のゼロコロナ政策による国境制限処置の緩和がある。さらに、中国経済は2023年の第1四半期に9%成長となり、その需要が国内鉱業部門の輸出増加に影響したと言える。


――輸出収入の9割以上を石炭輸出による収入が占めています。これには、石炭取引を巡る問題解決に向けた政府の腐敗防止策が影響したと思いますか?

石炭を含む各種製品と商品を輸出すれば、その収入は必ず伴うものの、石炭取引において輸出はされているが、それ相当の外貨流入がない問題があった。詳細は専門当局の判断に委ねたい。輸出量や市場価格に対する外貨流入が見られず、外貨準備高の減少、為替相場の上昇リスクに影響した。政府措置により輸出収入が明確になり、機会損失のリスクを防げたと考えられる。


――景気回復は続きますか?将来の見通しは・・・

今年は景気回復が続くと予想。国際機関は、2023年のモンゴルの経済成長率を55.5%と予測し、モンゴル銀行の第1四半期の予測である7.6%はわずかに低下予想であるが、平均的に成長は維持される期待である。言うまでもなく、この成長の主要因は石炭の輸出である。モンゴルは、年初3ヶ月で1410万㌧の石炭を輸出した。このまま続けば、石炭輸出は年末に4000万㌧を超え、外貨流入に大きな影響を与えるだろう。現在、外貨準備高は38億米㌦であり、5月から外債償還用に約4億米㌦を支出しても、外貨準備高は大幅に落ち込むことはなく、輸出収入で補われた。


――債券の支払いは借り換えされていませんか?

年初に債券返済向けに65000万米㌦の調達したうち、35000万米㌦の支払いは5月に予定されている。外貨準備高を圧迫しないよう、年初に借り換えを行ったが、外貨流入は予想以上にプラスの結果となり、外貨準備から債券を支払う事が可能となった。


――輸出収入は外貨流入の一つに過ぎないが、海外の直接投資に関する前向きな期待はありますか?

現状では輸出収入が外貨流入に重要な影響を与える。直接投資においては、オユトルゴイ事業に伴うものが大きい。毎月1億~12000万米㌦、年間10億米㌦以上の投資が入る。さらに、金融部門で欧州復興開発銀行(EBRD)および国際金融公社(IFC)から34億米㌦のグリーン融資を獲得し、外貨流入が順調に進んでいる。近い内、アジアインフラ投資銀行(AIIB)から1億米㌦の資金調達が見込まれている。政府も国際協力機関からの資金を得ている。


――経済成長に伴い金融市場におけるローン需要が増加しますが、銀行の中小企業向け融資が大幅に減少しているのは何故でしょうか?

景気回復の実感は今年3月からであった。3月だけで380万㌧の石炭が輸出され、1㌧当たり平均140150米㌦で販売と仮定すると、約89億米㌦の収入を得たことになる。この回復の効果は、今後数ヶ月で感じられるだろう。以前、銀行は不確実性に伴い融資を減らしてきたのと、新規公開株(IPO)を行っている大手銀行はバランスシートに過度の負担をかけないように、融資を減らす傾向にあった。現在、外貨準備高の増加により、企業は外貨を中央銀行(BoM)に売却、トゥグルグを得る動きが活発となり、ローン資金源は先月で1兆トゥグルグに到達した。中央銀行の証券残高は6.5兆トゥグルグであり、融資への資金源が増加する。景気回復により銀行の融資は1015%増加する見込みである。


インフレとデフォルトという2大リスクは常にあることを忘れてはいけない


――中央銀行と政府は、景気回復と言いますが、国民は物価上昇に圧迫され、賃金や年金が上がらず生活が苦しくなるばかりです。これら前向きな経済成長はいつ国民の生活に感じられ、影響を与えるのでしょうか?

国際通貨基金(IMF)によると、2023年は世界的にインフレは持続される。しかし、モンゴルは比較的低いインフレ率を維持する予想であり、国内のインフレ率は、3月に12.1%に達したものの、4月には11%に減少した。インフレが続く理由の一つは輸入品の価格上昇である。また、民間部門における給与上昇により製造品の価格が高騰され、インフレを引き起こすもう一つの原因となっている。景気回復は需要を刺激し、インフレ率に影響するが、年末10%に減少、さらに8%まで下がると可能性もある。景気回復に伴い雇用が激化され、家計収入にプラスの影響を与えるだろう。一方、財政は拡大せず、現在水準に維持することが重要である。


――景気が回復しても、政府は節約体制を継続すべきということでしょうか。

はい。今は外国為替の流れは改善しているが、残る数ヶ月の支出は異なる。国内市場は中国経済に大きく依存している。一方、全取引が71日から証券取引所通過による変更は未定である。今日の景気回復は一時的である恐れも残る事から、今後の維持に焦点を当て、次の景気後退サイクルをより少ないダメージで乗り切るためのメカニズムを構築することが重要である。したがって、短期的な競争より包摂的成長と安定的世帯収入増加を最終目標に目指すべきである。


――パンデミックや国際緊張情勢からモンゴルは何を学び、今後何に注意すべきだと思いますか?

2つの大きな教訓を学び、過ちを繰り返さないことが重要だと見ている。まず、インフレ上昇10%毎に3.5兆トゥグルグが吹き飛ぶことである。2020年以降の3040%のインフレ率は1516兆トゥグルグを吹き飛ばしたことを意味する。したがって、マクロ経済の政策を慎重にすべきである。次に、モンゴルの対外債務状況は世界諸国に比べても非常にデリケートであり、リスクが高いと言える。輸出製品の価格が下落し、輸出収入が減少すれば、債務不履行のリスクは常に存在する。したがって、リスク管理のため収入増加の際はなるべく貯蓄、可能であれば返済を進める必要がある。パンデミックとウクライナ侵攻による大波は終息傾向にあるが、国際的緊張情勢は依然として残り、インフレとデフォルトの2大リスクを防ぐ政策の実行は継続すべきであり、1四半期の結果だけで経済成長を評価することはできない。


――インタビューに応じて頂き、ありがとうございました。