再生可能エネルギー発電振興 輸入電力の代替、国の発展への期待も高い (後編)
経済
前編では、モンゴルの再生可能エネルギー開発を、水力発電所の開発とその現状に例えて紹介した。後編では、その有意義性等について書くとする。
モンゴルの場合は、内部水資源量は年間平均30.6立方kmで、外部水資源量を含むと総水資源量は34.6立方kmとなる。ここでいう外部とは、中国やロシアからの地表水だ。地表水の約6割が国外へ流れてしまい、わずか4割が国内の大事な水資源となる。つまり、水資源のほとんどが国外に流れるということだ。
国際慣習法上は、あらゆる国にはその国土を流れる地表水の2割に対して自国のための活用を認められているという。だが、研究機関の見解によると、モンゴルはその水資源総推定量560億KWの1%しか活用できていない。水力発電所の建設で貯水もでき、空気中の水分も増える。さらに、副産業となる水産業や農業の振興も可能なわけだ。もともと、モンゴルで建てられた水力発電所の場合、初期は電力発電を目的というより、農業用水の貯水ダムとして建設していた。例えば、1959年に建設されたカラコルム水力発電所は、最大出力が小さい上、稼動に伴って故障等の恐れがあるから今でも農業用水ダムとして利用している。また、ゴビ・アルタイ県のゴーリン水力発電所も農業用水ダムとして利用し、年に7カ月だけ水力発電所として稼動する。発電した電力をゴビ・アルタイ県の一部やザブハン県の1郡に供給中だ。
モンゴルは、気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書の締約国である。国連は、環境汚染対策に向けた加盟国の取組を奨励後、すでに25年が経つが、モンゴルの場合、ドゥルグンとタイシル水力発電所が京都議定書に沿い、なおかつ自然環境に対してやさしい発電と地球温暖化防止に貢献した事業としてたたえられ、1億~1億2000万トゥグルグの奨励金が与えられた。しかし、国民の間では、水力発電所に対するイメージは決してよいものとは言えない。2007~11年の間、国民に「ゲゲー・ノール(湖)」として知られているタイシ
ル水力発電所の稼動当初は、ザブハン川の流水を制限してダムに貯水するという一時措置がとられた。この措置はザブハン川の下流に大きな影響を与えることとなり、ザブハン川下流一帯に干ばつが起きる引き金となったことから、当初は、地元から反対の声も上がっていた。本当は、水力発電所は水の流動性を利用した発電方法であって、それを汚染させない上、通常は水を上から下へと流動させるから干ばつの時も川の水が尖れることなく流れるというメリットもある。当初の稼動に反対していた地元の遊牧民によるダム付近への移住も増えたという。また、ザブハン川に生息する魚もダム建設以前と比べると大きくなった、と専門家も指摘する。
ゴビ・アルタイ県庁所在地となるアルタイ市は、その消費飲料水を約60km離れた所から配水管を通して汲んでいる。しかし、アルタイで使用される水は、カルシウムやマグネシウムの金属イオン含有量が多い硬水だ。ゴビ・アルタイ県民に安全な飲料水を供給するために、「プレステージ」社はゲゲー湖からの水を配水する事業を発案している。嬉しいことに、ドゥルグン水力発電所付近ではネズミ科のマスクラットの生息が確認されている。専門家は、ダム周辺植林でウミダヌキの生息も可能、と説明している。
モンゴルの再生可能エネルギー開発分野の権威の一人、ダルハン太陽光発電所のプロジェクト・マネージャーを務めたナムジル・エネビシ物理博士も、モンゴルの水資源について、非常に懸念すべき、とした。というのは、国内で消費される水の85%で地下水が占めるからとした。先進国では地下水と地表水の使用割合が9対1であるが、モンゴルはその逆だ。
モンゴルにおける地下資源のほとんどが眠るとされるゴビ砂漠は、サハラ砂漠に次ぐ大きな面積を誇る。オユトルゴイ鉱床やツァガーンソバルガ鉱床、タワン・トルゴイ鉱床といった発展戦略上の大きな意義がある鉱床もここにある。なお、第二次産業は国家歳入にも大きな割合を占めるため、鉱産業という基幹産業の振興は重要な課題であるのはいうまでもない。責任のある鉱産業発展のために、自然環境修復保全や鉱業用水の確保を自然に対する破壊が最小限に抑える形で解決を図らなければならない。残念ながら、モンゴルでは多いに使用されている地下水が貴重なものだ。貴重かつ高額な水で鉱産物を生産すること自体がもったいない。エネビシ氏は、他国では地表水量が乏しい場合、その水源から地下配水管を通して水を供給する技術が実践導入されている、と述べながら、「外部に流れる水を有効活用できる方法はいろいろだが、その中で『オルホン河~ゴビ砂漠』計画は、一番適用性が高い」とした。加えて、この計画はモンゴルがその水需要を外部へ流れる内部水資源で解決できる意義がある、とあるインタビューに対して応えた。
「オルホン河~ゴビ砂漠」計画とは、オルホン河中流で流動調整可能な貯水ダムの建設事業で、その生態系への影響を最小限に抑えるとともに、この河の氾濫による被害を食い止める狙いもある。長期的には、通常水不足が深刻とされるゴビ砂漠に安定的に水を供給すると同時に地下水使用量を総使用量の45%まで削減することだ。これもまだ「モンゴルの国家安全保障の概念で明記された『モンゴル国は地表水活用推進のため、河川の流れに対して調整を行うべく貯水ダムを造る』との規定に沿う。オルホン河から約740km離れているゴビ砂漠まで配水管で水を運ぶために、その中流に約7億3000万立方㍍の水を貯水できるダムを造らなければならない、と技術面の課題があるが、大きな問題は他国の理解だ。
「オルホン河~ゴビ砂漠」計画は、ロシアが反発を強いているもう一つの案件だ。彼らの見解は、バイカル湖の生態系に対する影響だというが、モンゴル側は、本事業はロシアへ流れるオルホン河の流水量のほんのわずかである0.73%をモンゴルに留まらせようとしたもの、と主張。真っ向からの対立だ。しかし、モンゴルはロシア・ブリヤート共和国のグシノオゼルスク熱併給発電所から電力を買い取っているが、それも高額なものだ。ロシアで1KWが1ルーブル(ロシアの通貨)の電力は、モンゴル消費者には9ルーブルと跳ね上がる。一般消費者にとって大きな負担となるロシアからの電力輸入を2分の1まで減らす可能性がモンゴルにはある。それは、豊かな石炭を基にする火力発電所建設と、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを有効活用することだ。これの補助役割を果たすのが、水力発電所である。
本社記者:B.アマルサイハン