西部の地域活性化 電力安定供給を担うエルデネブレン水力発電所

経済
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2022-05-17 09:02:27

本事業の必要性と重要性

 

モンゴルがエネルギー政策の基本方針としているのは、エネルギーの安定供給、即ちエネルギー源の海外依存から脱却し、新たなエネルギー源を構築することで、賄切れなくなった電力需要急増を国内発電事業で補完することだ。その一つは、西部地域へ電力の安定供給を担うエルデネブレン水力発電所で、電力の海外依存から脱却する機運になると大いに期待感がある。

西部地域の消費電力は約35MW。ホブド川で設置されるエルデネブレン水力発電所は出力90MWとなる。つまり、需要と供給のバランスからすると、発電量は消費電力を3倍も上回る。

モンゴルにとっての最適なエネルギーは水力と言われており、世界も大いに期待している。しかし、モンゴルは大水力発電所を有しておらず、既存のタイシル水力発電所とドゥルグン水力発電所がともに中小水力に分類される。それでもこの発電所は重責を負い、年中無休で発電を続けている。

 

着工19年後、投資回収が完了

 

エルデネブレン水力発電所事業は、モンゴルの開発戦略目標の一つだ。着工から19年後に投資回収が完了すると見込まれている。政府も新規発電所を建設する等を含め、エネルギー開発を積極的に政策支援する構えだ。2030年に国内で排出される温室効果ガスの量を14%削減する目標を掲げている以上、再生可能エネルギーの普及に力を入れていくことも当然のことだ。

西部の5県は消費電力の76%をロシアから輸入しており、残りの24%をドゥルグン水力発電所で賄っている。モンゴルは年間、総額4000億トゥグルグの電力を国外から買っている。

 

開発事業の経緯と誤解

 

独立国家にとってエネルギー安全保障は死活問題。それ程重視される電力を海外から輸入する国だから、その国民でさえ、可能な限り国内リソースを活かす新たな電力源の確保に向けて協力すべきだ。

国はエルデネブレン水力発電所の建設に当たって土地収用と住民の移転を行わなければならない。移転対象は270世帯に及ぶ。政府は2022年~25年にかけて水力発電所建設のため、住民の移転を段階的に実施する計画だが、事業開始に向けてダムや水力発電所の完成に伴う洪水などの自然環境への影響を懸念した住民から強い反発があった。従って、同開発事業に対する住民の理解と協力を得るには相当の時間も必要となった。水力は最も安全な発電事業だ。

馴染みのある場所から移転するのは、なかなか苦しい決断だろう。しかし、水力発電所建設事業の推進は重要なことである。西部地域に暮らす40万人の生活、591郡の地域起こし、国家開発のことを考えると、やむを得ない選択かもしれない。住民は政府に協力し、深刻な供給不足に陥ったエネルギー部門の再復活を重視すべきだ。海外でも開発のために集落ごとの移転もやむを得ずしたという例も少なくない。

一方、政府は建設事業促進に向けて移転対象世帯に対して賠償する方針で、具体的な解決策を探っている。

 

プロジェクト効果と未来予想図

 

各分野の専門家がまとめた調査結果を踏まえ、専ら西部地域の電力輸入依存からの脱却という観点だけではなく、水力発電所の完成でもたらす波及効果を考えたい。

同事業は経済的な意義という点からすれば間違いなく重要。これに加え、水力はよりグリーンで自然環境への負担も少なく、供給が安定した再生可能エネルギーである。政府は、貯水池の予定場所における84ヶ所にある歴史・文化遺産206点を保全するために相当の予算を計上した。言い換えると、水力発電所の建設は、川の流れを変えることもなく歴史・文化遺産に影響を及ばないよう丁寧に扱うという。

発電コストの低下。水力発電所の発電コストは、火力発電所に比べるとかなり安く、その分電気料金の値下げも現実味がある。また、高額な輸入電力を代替するから、その分、財政的に余裕ができる。また、安価な電気料金は家計や中小企業にとってのプラスだ。これは地域起こしや新規雇用の創出を後押しするだろう。

貯水池などは付近の湿度上昇と牧草地の再生につながる。世界の年平降水量は880mmに対し、モンゴルの平均値は47240mmで、乾燥地帯となる。貯水池などの設備により、周辺の湿度を人工的に上げることが大事だとされる。水力発電所はホブド川やハル・オス湖周辺の降水量増加をもたらし、牧草地帯の土壌再生に良い影響をする。

温室効果ガス排出量の削減。石炭で稼働する火力発電所は、大気汚染物資の排出量が多いとされており、世界各国も脱炭素への動きを加速している。発電設備利用率は、水力発電所の場合は97%、火力発電所は30%程度である。

観光と養殖業等に特化した産業地の可能性。貯水池などの設備により、魚を養殖する環境ができる。

ホブド県エルデネブレン郡、ホブド郡、ボヤント郡における灌漑農業の開発可能性。地域再生のための予算計上額も相当減る。

 

エルデネブレン水力発電所事業に関する年表

 1964年、ソ連エレクトロセッチ研究所はエルデネブレン水力発電所の初期調査を実施。

2008年、エム・シー・エスと九州電力、(株)西日本技術開発がF/S調査を完成。

2010年、世界自然保護基金(WWF)とスイス開発協力機構(SDC)がホブド川とボヤント川の流域評議会が水資源に関するプログラムを作成。

2015年、エルデネブレン水力発電所開発プロジェクト・チームを設置。

2018年、政府は中国が有償資金援助として供与する10億米㌦の枠で、エルデネブレン水力発電所の建設プロジェクト実施へ28850万米㌦を充てる閣議決定。

2019年、水力発電所の実現可能性調査を改める。中国北方水資源は新たなF/S調査をまとめる。

2019年、政府はプロジェクト実施に向けて土地28000㌶を収用。水力発電所の敷地と貯水池等はホブド県とバヤンウルギー県、オブス県の4つの郡にまたがる。

2021年、建設を受注した中国電力建設らと完成引渡しを条件の事業契約が締結。工期は61月。

国営モンツァメ通信

  ガンバータル・オラントヤ経済評論家