モンゴルの開発ロードマップ「長期ビジョン2050」

経済
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2020-12-31 10:54:56

国会(国家大会議)では、5月13日、30年後の開発ビジョンとなる国家戦略における長期的開発計画「長期ビジョン2050」を策定。モンゴルは、「経済の多角化と工業化を通じて、消費国 から製造国へ、輸入国から輸出 国への大変貌を遂げる」、「1 人当たりの国内総生産高の値も2030年に1万2000米㌦、2050年は 2030年の3倍、約3万8000米㌦へ増額」との具体的な政策目標を掲げた。

長期ビジョンとその前提条件

30年後の開発ビジョンという長期的な視野に立った国造りには、政府機関及び業界団体、大学・研究機関、各分野の専門家や研究者ら、総勢1500人が尽力。かつてのモンゴロル協同組合(1914年)、大藏省(1924 年)、国家開発委員会が1945年以降の8回の5ヶ年開発計画などの500の開発計画が統合され、これらの成功と失敗を踏まえ、作業におよそ8カ月をかかった。 だから、その概要は、モンゴル帝国の歴史と遊牧文明、特有性と世界の発展理念を両立した「モンゴル独自の開発路線」とな ったと言えよう。世界各国はその国家戦略における2050年までの長期的な開発政策を策定しており、モンゴルもその例外ではなかった。時期的に偶然にも民主体制移行30周年と重なった。体制変換は自由の尊重と権利の保障、多元主義、自由な報道、自由かつ開かれた選挙、複数政党制に基づく立法主義、市場型経済発展をもたらした。具体的な数値に表すと、国内人口が220万人から330万人へ増え、全国の平均寿命は62.8歳から70.4歳となった。国内総生産高は1993年の7億6840万米㌦に対して現在はその17.5倍の138億米㌦などを挙げられたが、人間開発指数は177カ国・地域中92位、国際競争力は140カ国・地域中99 位、ビジネス環境指数は190カ国・地域中74位、腐敗認識指数は93位になるなど実績が悪い。要因は海から遠ざかっている内陸国、インフラストラクチャーの未整備、都心部と地方間の発展格差、厳しい気候条件、資源過剰依存の経済構造などがある上、4年ごとの総選挙に伴う政権交代と官僚制の不安定化など ガバナンス上の問題を抱える。開発計画はこうした状況を踏まえ、長期的な開発路線を明確化することを目的とした。


目指すべき目標を設置しない限り、先行きは不透明

政府は長期的開発では、国民の共通価値、人間開発、生活水準と中間層、経済、ガバナンス、グリーン開発、安心できる社会、地方再生、ウランバートル市と衛星都市構想といった9つの目標と47の目的を設置。2021年~30年、31年~40 年、41年~50年と10年ごとに3区分し、目標達成に向けて段階的な行動を実施する。なお、立法府に対して、5年ごとの中間報告を行わなければならない仕組みを構築した。「目指すべき目標がなければ、どこへ行くかわからない」 、「ビジョンを待たぬ人民には秩序が存在せず」とのことばが ある。だから、1人当たりのGDPを現在4000米㌦から、2030年に 1万2000米㌦、2050年に3万8000 米㌦にする、アジア太平洋地域において高い競争力を有する国に打って出るなど野心的な開発政策を掲げた。

モンゴル人を核の開発論

あらゆる社会の原動力が中間層と看做されており、各国も人口比率における購買力のある中間層の拡大を政策の重点としている中、国内では中間層の人口比率が低く、社会的な格差拡大の傾向があり、30年前に志した民主的な価値観へ悪影響を及ぼしかねない実態だ。その例は、モンゴルは人間開発指数で177カ国・地域中92位であること。だから、開発政策では、人教育・健康、モンゴル人のアイデンティティは重点として扱われている。モンゴルの子どもは、知能ラ ンキングでは世界7位でありながら、その応用力では49位、応用力育成環境では59位、創造力では111位という低水準だ。だから、教育は人間開発・生活の保証、国家繁栄への基礎という観点から、質の高い学校教育への平等なアクセス実現が目標に挙げられた。医療サービスの質の向上と充実化、効率的な制度づくり、2年ごとの国民全員を対象の人間ドック実施、航空救急の導入などの医療改革に向けて包括的なアプローチをかけるとした。一方、人口増加を2030年に400万人、40年に460万人、50年に540万人と見込み。 なお、保健福祉、教育の質の向上、住宅化、所得水準、生活環境、保証された雇用、生活 の質、幸福度、社会的な安全保障に対して総合的なアプローチを通じて、人間開発指数の0.74ポイントを2030年に0.8 、2050年0.9へ引き上げていくとされた。行政サービスの高度化・業務効率化に資するICT推進と市民社会の実現も取り上げられた。政府はこうした社会的な政策目標と目的に向けた方策を国連の持続可能な開発目標2030に整合させて、長期開発計画の第1区分の2030年までに実施する。


消費から製造、輸入から輸出へ国づくり

モンゴルの経済は依然続く鉱業部門依存。資源の相場変動は国内経済に直結し、それを大きく左右する要因となっている。30年後の開発ビジョンで、1.単一部門へ過剰に依存する経済構造の改革・不安定な要 素を解消させるため、鉱産物の高付加価値付商品づり、資源に関わるインフラストラクチャーの整備、2.重・軽・食品 を軸に産業振興、3.エネルギー部門、4.流通部門、5.テー マ別観光開発及び関連サービス業、中小事業振興、6.創造性を核とする経済構造を、経 済優先事項とし、包括的な政策実施を通じての消費国から製造国へ、輸入から輸出への国家戦略の核とする。具体方 策は、責任ある鉱業部門振興と鉱産物の加工能力底上げ、高付加価値付き商品の輸出、タワントルゴイ炭鉱からガショーンソハイト国境検問所、 タワントルゴイ炭鉱からズーンバヤン駅間の鉄道開通を通じて開発プロジェクトにインフラ・アクセス導入、タワントルゴイ火力発電所、エルデネブレン水力発電所などの数々の電力事業、製油所稼働による国内へ製品提供とされた。政府は鉱業収入一部を「 国民の富の基金(政府系投資ファンド)」に蓄財し、同基金から経済優先分野へ積極的に資金を融通するとともに、戦略的と位置付けられたメガプロジェクトへ融資などを通じて、鉱物資源収入を平等な再分配できる制度をつくる。労働力人口の3割程度は従来 の遊牧を営む人々。効率が悪く生産性が低いため家計収入も少ない実態を改善し、酪農及び農業振興を図る。農畜産物の高付加価値付商品製造により消費国から製造国へ発展していくことを目指す。エネルギー部門は、人間でいうと血管のように死活問題。だから、エネルギー部門では、発電所と地域型ボイラーなどの増設で、エネルギーの保守・運用・開発を担い、まして北東アジア電力系統連携への接続を通じて国際エネルギー市場へ参入を図る。なお、地域特性を活かしての自然絶景、歴史及び文化遺産のテーマ別国内観光を開発。西部地域ではアドベンチャーをテーマの冒険の旅、ハンガイ地域では自然絶景とレクリエーションをテーマ、ゴビ地域では考古学的発見をテーマ、中央及びウランバートル付近では文化をテーマ、東部では歴史をテーマの観光を開発する。観光振興に当たって商品及びサービスの質の向上、競争力の底上げ、遊牧文化というモンゴルの特性を活かしての観光ブランディングを奨励する。

海外の投資と開かれた外交政策

かつての国家戦略は目標設定上、概要的で、具体性に欠けるなどの欠点を内在していた。今度の長期ビジョンでは、開発財源が確保された総額49兆7000億トゥグルグの150件事業、財源未確保の総額18兆 6000億トゥグルグの88件事業 案、事業化可能性を探るべき98件事業案が組み込まれた。プロジェクト総額は、モンゴル開発銀行(DBM)融資で3 割、国家予算から7.5%官民連 携を通じて20.3%、海外資金提供などで36.6%を担わせる。外資誘致に課題はいくつかある。一つは外資の構造。部門別外資を見ると、鉱業は(地質調査、探鉱、産出、原油)は総高の約69%、商業は17.4%、飲食業とその他の分野は12.7%で、 外資の多様化を進んでおらず、主に2つの部門に集中している点。その上、国内法規及び政府機関ホームページなどは標準語のモンゴル語のみである点。そのため、Eモンゴリア・プラットフォームで投資に係る行政サービスを受けられるなど、サイト等の英語化も急ぐという。

大気汚染対策及び汚染物質排出量80%カット

モンゴル人は、遊牧文明を活かして先端の高効率的な技術に基づくグリーン技術が浸透した文明へ、自然と人間が共存する文明形成が可能だと考える。だから、長期ビジョンでは、美しい自然環境を次世代へ託すために国土の35%河川の75%、森林の60%を国家保護下に置くことを目指す。また、絶滅の危機にある生物及び植物の保全に特化した国立公園、森林面積の国土比率9%に上げるなど、自然保全に向けて包括的に取り組む。 経済協力開発機構(OECD)は、大気汚染悪化に伴う将来的なコストを1日当たり500米㌦と、研究報告書で指摘してい た。一方、政府は2019年5月から首都圏において生石炭使用禁止を執行。石炭に代替する改良固形燃料(豆炭)の製造・普及を図り、同措置の成果は汚染物質排出量を50%カットできた。 改良固形燃料製造工場1基はこのたび運用。今後、汚染物質排出量を80%カットできる。

長期ビジョン2050で掲げる9つ の目標

1.国民の共通価値

現代の科学的手法を用いて研究及びその成果を根拠の「母国、国史、文化」を国民への浸透を図りながら、国民の自己認識と他社認識を通じて国見の共通価値を構築すること。

2.人間開発

質の良い生活が保障された社会福祉、幸福で安心して暮らせる環境、質の高い教育へのアク セス可能な社会づくり、健康的なモンゴル人を目指すこと。

3.生活水準と中間層

就労支援を通じて家計所得の向上、クリエイティブかつアクティブな家族づくり、消費ニーズに沿った住まい、自営業及び企業化に向けた適切な環境づくり。

4.経済

実質的な経済成長の恩恵を国民全員が受けられる、中間層の人口比率が高い、低貧困率の実現、自給自足で、輸出志向の産業構造と、投資資金及び財力のある多角的な経済構造を目指す こと。

5.ガバナンス

行政のデジタル化と腐敗対策、官僚制度の安定化を通じて、市民のコミットメント拡大と市民のための行政サービス実施を目指すこと。

6.グリーン開発

自然環境にやさしいグリーン 技術を通じて自然保全を図り、 持続可能な自然保全により、現世代と次世代がその恩恵を受けられるよう環境を作ること。

7.安全かつ安心できる社会

国防力の強化、人権と権利、 社会的秩序、国民安全、防災取組を通じて、社会的安全保障を実現すること。

8.地方再生

モンゴル固有文化を重んじ、人口の分布を配慮し、自然と共存する、地方名産物に特化したグリーンな生産基盤と地域経済統合加入、競争力のある、格差なき地方再生を図ること。

9.ウランバートル市と衛星都市構想

市民が安心して暮らせる快適かつ自然環境にやさしい、 スマートな都市開発を推進すること。

本社記者: チョローン・アリオンボルド