モビコムCEO濱田達弥さん:COVIDを追い風にビジネスチャンスを拡大、 社会貢献、若い世代と精力的に学びをシエア

経済
manduhai@montsame.gov.mn
2021-07-26 12:28:34

 モンゴル情報産業界の文字通りトップを走り、躍進続ける最大手MobiCom。今年で創業25周年を迎えた。2016年3月、KDDIにおけるグローバルビジネスの長年の経験を携えてMobiComのCEOに着任。欧州での7年の経験とあわせると、既に海外での駐在は13年目、4か国目。異色の個性を武器にコロナ時代の閉塞感をものともせず1600人社員のトップとして率先して行動する。ビジネスだけでなく、社会貢献の面でもモンゴル社会への影響は大きい。あらゆるビジネスチャンスにチャレンジする。この気迫はどこから来るのだろうか?

 日本人離れした大胆な発想と行動のうらに潜むしなやかな計算。今回は、濱田さんの多忙な日々の合間を縫って、「社会貢献」、「若者の育成」をキーワードに現在と今後の展望を聞いた。現在47歳。


――まずは、この度の「北極星勲章」の受章、おめでとうございます。外国人に与えられる最高位の勲章と聞いています。受章のご感想は?

 この国で生活し、仕事をし、社会に溶け込もうとしている日本人の私をこの国が認めて下さった。大変名誉なことで、生涯に渡って自身の思い出となり、私がモンゴルにいたという大きな足跡(価値)、そして誇りとなります。一方で、今回の叙勲は私一人の努力ではなく、私についてきてくれたMobiComの仲間、公私にわたり私とお付き合い頂く皆様、大統領に対しご推薦くださったモンゴル商工会議所ほか色々な方々のサポートと協力のおかげと、感謝しています。


――ところで、今のコロナの事態でIT情報分野はどう変わったでしょうか?

 昨年2月にCOVIDの感染者が出て、ロックダウン3月、4月とありましたが、夏の時期は比較的何ごともなかったように皆さん過ごされたかと思います。しかし、11月に一気に感染拡大した。社会全体がダメージを受け、一般消費者も家計所得が落ち、特に対人サービス業の人々は莫大な損害を被った。COVIDにより人々の生活はフイジカルなアクティビティが制限される。そうなると社会全体が、デジタルテクノロジーの方へシフトしていく。その結果、情報通信産業の重要性が増し、社会全体のデジタル化と言う観点からみると当社にとっては追い風になった。


――この分野ではモビコムも親会社のKDDIも収益が右肩上がりで伸びた?

 そうです。多様なビジネスチャンスが生まれ事業化していきました。通称OTT(Over The Top) TVと呼ばれるホームブロードバンドやモバイルインターネットを利用したTV・Videoストリーミングサービス”VOO”の開始や、モバイルを利用した決済・ローンアプリサービス“monpay”の加速、または企業に対するデジタルトランスフォーメーション(通称DX)のソリューションビジネスなど。


――しかし、デジタル化の流れが進むと、子どもたちが家に閉じこもってゲームやアニメにのめり込むなどの悪影響もあるのでは?

 いまは我々の子どもの頃とは違っている。昔は鬼ごっこやかけっこ、魚釣りなど外遊びをしていた。それに対し、いまの子どもはスマホやパソコンなどで遊び、外遊びが少なくて可哀そうだと見るのは、私たちの固定観念からの感情に過ぎないのでは。もちろん、人間はコミュニケーションを通してソサエテイを作る社会性動物なので、それを遮断されるダメージは大きい。あくまでも時勢にあわせたバランスの問題です。


――コロナにより社会は一変した。次第に終息に向かっても、もう前の生活には戻れない?

 間違いなく戻らないでしょう。なぜかと言うと、我々は日常で固定観念を持って生活をしている。その方がある意味ラクですよね。会社の中でもそれを崩すのはなかなか難しい。ところが今回、1年半にわたるCOVIDの社会的影響によってこれまでの固定観念とは別の思考をしなければならいところへ追い込まれた。人類史上に残るネガテイブな状況を体験すると同時にパラダイムシフトが後押しされた。我々の固定観念を変える大きなターニングポイントにもなったのではないか。

 例えば、仕事は会社のオフィスで9時開始が当たり前だった。しかし、誰もなぜ9時?と問わない。固定観念があるので何で?とも思わない。しかし、今回、COVIDによってリモートアクセスや時間シフト制を入れざるを得ない状況になってきて、もう1年半も続けているとこれまでとは全く異なる概念と仕組みが必要となった。従来の固定観念が完全にくずれる。PCやモバイルを利用したリモートアクセスによる会議も当たり前に出来ている。


――COVIDによってモビコムの企業戦略はどう変わったのでしょうか?

 実はCOVIDだから変えたというのはない。もともとやりたかったことをCOVIDがきっかけとなって後押しになった。企業戦略を変えたのではなく、この機会にこれを加速化した。我々はIT情報通信産業なので、世の中のデジタルトランスフォーメーション(通称DX:デジタルテクノロジーのの浸透とともにビジネスオペレーションや、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる、効率化と価値の追求を行う考え)に貢献していき、先頭を切ってビジネス化していく。いろんなことをデジタル化することによって、生産性を上げたり、事業効率や運用効率を上げたりしていく。企業の中のプロセスの効率化とか、いろんな要

素があるのがデジタルトランスフォーメーションなのです。モビコム・サービスショップでは以前、お客は順番を待って並んでいたが、いまはモンペイのQRコードで支払える。一段と便利になったでしょ。フレキシブルに人事ローテーションを変えてバックアップを作っていくとか。業務がリモートアクセス化しているので、物理的オフィスの必要性がなくなることも、そうなるとクラウドの中に仮想のパソコンをおいてインターネットアクセスすると、オフィスに自分のパソコンもいらなくなる(もちろんキーボードとスクリーンは必要ですよ。)仮に社員が“バケーションで別荘“に行くと言ったら、「いいよ、ネットだけつない

でおいて」と言う。これが最近のトレンドの”ワ―ケーション“(バケーション中だが仕事はしている)。このように多様な意味のパラダイムシフトが加速し、効率を上げようとしている。良い点と悪い点はあるが、COVIDはおしなべて、“気づき”を得られるチャンスを全人類に与えた。


――では次に、御社の社会貢献についてお話しください。

 過去には、地方の学校に「ランチボックス」(小学生に給食を届ける)を実施したり(これは後に政府が全学校に対し制度化)、WorldVisionやUNICEFと一緒にトイレ設置の「ウオッシュ・プロジェクト」を約110校にしてきたが、これに関しても、昨年政府が将来にわてって全国の学校に設置するというのでお役目終了。そしては現在は、「ラブシュアリング」をやっている。モビコムの利用者に7000トウグルグのユニットを購入いただき、その売り上げから数%を社会貢献に回し、田舎の学校に浄水器を設置してまわっている。これらに共通して言えるのは、「子どもに特化した社会貢献活動」です。さらに今年は、UNICEFと連携し、貧困層の子どもをピンポイントで選び、オンライン授業用のモバイルハンドセットを寄付します。また、障がいを持つ方のためには、JICAにアドバイスをもらってモビコムショップでスロープをつけたり、障害者用のトイレを設置したりした。就労支援では、足の不自由な方はコールセンターのオペレーターに採用している。今後、いっそう採用を増やしていきたいと考えています。


――ところで、濱田社長自らが、学校で学ばないことを教える「モビコム学級」で学生たちにセミナーを実施していますね。「トップビジネスマンから直接聴けるのがいい」「人生勉強になる」などと好評とか。企業の人材育成メセナとしても注目されていますよね。

 はい、今年で3年目です。月に1回、デジタル化の時代の学生さんが興味を持ち、将来に役立つテーマ(ビジネス、マインドセット、自己啓発など)を話したり、いまは動画を自分で作成して配信したりしています。関連して、最近では、国立大学法学部・名古屋大学日本法センターでもご要望に応じて講義をやらせてもらった。「成功の秘訣は?」「良き習慣化とは?」など質問が多く寄せられます。よければ私個人のYouTubeチャンネル、「TatsuyaHamada」をご検索ください。ここには、モビコムの社員や社外のビジネスパーソン、モンゴルの学生たち行う私のセッションの動画をたくさんアップロードしてあります。私自身、世代の違う若者に対面して話すのはビジネスにも役立つし、自分の口から発する言葉には責任が伴う。つまり自身に対するコミットメントにもなる。私はテイーチしているのではなく自分のバリューをシエアすることが重要な役割と思っている。自分にリマインドもできる。




――御社は若い社員が多いとか。彼らへの教育は?

 わが社は1600人の社員で20代が最も多い。2017年から優秀な社員を本社KDDIへ1年から2年コースで派遣するプログラムをつくりました。これまでに馴染めなかった者もいたが、現場の第一線で日本人以上に活躍している者もいますよ。大学留学とは違

って、若手の中で企業のインフルエンサー(人々に大きく影響を与え行動をとる人物)が育てるのは重要です。日本の大学を出た優秀な人も、多くはそこで終わり。そのあとがない。海外業務など自分が経験したことを社員にもやらせてやりたい、活躍してもらいたいですからね。


――今年はモビコム創立25周年ですね。何かイベントの予定は?

 私は入社25年目、モビコムと同期。すごい運命でしょ(笑)。近々、お祭りイベントではなく、大きなセンセーショナルなプランを予定していますが、いまは内緒、どうかお楽しみを!


――最後に、濱田さんのお好きな言葉は?

 一貫して言っているのは、「有言実行」。私は言ったことは努力してゴールめざすタイプですから。


――貴重なお話をありがとうございました。


取材を終えて:相手の顔をしっかり見てよどみなく話す。しかし、“立て板に水”のようではなく、意思を伝えようとする思いが

伝わる。この人ほどモンゴルのテレビや新聞、雑誌などマスコミに登場する日本人は多くない。ジムで鍛えた身体全体からオーラが漂う。目立つ、押し出しが効くが、その一本気に好感を寄せる人も多い。会話にやたら英語(外来語)が入るのが特徴だ。

 社員の評は、「常にビジネスチャンスを窺い、すぐ計画し、アクションが早い。濱田さんが来た当時、2016年3月下旬はメーン客が減って会社は少々行き詰まって落ち込んでいた。そこを元気づけてくれた。若手を育てる意識はありがたいと感謝している。古いオフイスからいまのビルに引っ越しを決断したのも濱田さん」、また別の評では、「社員に大きな影響を与え、先輩

として尊敬している。いい意味で競争意識が強い」。モンゴルに赴任して早くも6年目。こんな長くいる人も珍しい。モンゴルが合っているからだろう。コロナ禍のなかでも会社を発展させ、意気軒高だ。これからも濱田さんの活躍から目を離せない。