Ts.オーガンツェツェグ氏:日本で愛情を込めて生産・製造された品物をお客様の手元まで丁寧にお届けするということに尽きます
特集
~モ日外交関係樹立50周年記念に向けて~
「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」 シリーズ II
弊紙「モンゴル通信」は在モンゴル日本国大使館と協力し、「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」をテーマに、両国のビジネス分野で活躍している日本留学経験のある若手企業家をシリーズで紹介している。
今回のシリーズでは品質の高い日本の製品をモンゴルへ輸入し、販売しているABICO社のツェンド・オーガンツェツェグ社長を紹介する。
「Growing Together」をスローガンに掲げる同社は2011年に設立され、現在日本の衛生用品(大王製紙株式会社)、食品(カゴメ株式会社、エスビー食品株式会社)、健康用品(ピップ株式会社)、ベビー用品(ピジョン株式会社)の正規代理店として活躍している。
日本の高品質な製品を通し、日本の文化と知恵をモンゴルで広げているABICO社はCOVID-19にも負けず、昨年の売り上げを140億トゥグルグに上げている。なお、今年は170億トゥグルグの売上を目指し、5つの直売店、7つのフランチャイズ店をはじめ1000人以上のサポーターと共に顧客一人一人の幸福を大事にしながら活動している。
小林大使:オーガンツェツェグ社長が日本に留学しようと志したきっかけは何ですか。
オーガンツェツェグ社長(以下「U」):日本のドラマ「おしん」を見てとても感動したことが、日本に大きな関心を持つきっかけとなりました。幼い「おしん」が、人を大切にする気持ちと困難を乗り越える力を持ち、あらゆることに対していつも前向きな思考で頑張る姿を見て、とても素晴らしいと憧れました。
日本へ行って「おしん」のように強くて、いつも輝く女性になりたいという思いを募らせ、その後に日本留学を果たすことができました。
小林大使:日本で「おしん」のように厳しくつらい生活をするのは嫌だと思われなくてよかったです(笑)。「おしん」は女性実業家の物語ですが、オーガンツェツェグ社長もモンゴルに帰国後、ABICO社を立ち上げて活躍されています。ABICO社の名前の由来を教えてください。また事業の概要、企業理念についてお話しください。
U:「ABICO(アビコ)」は、日本の地名「我孫子」に由来しているわけではありません。社名は多くの意味が込められた造語です。まず、ソニーグループ株式会社創業者の一人である盛田昭夫氏が社名をつける際の話を以前に読んだことがあり、影響を受けました。「SONY」とは、音を意味するラテン語の「Sonus」と男の子(坊や)を意味する英語の「Sonny」という2つの言葉に由来する造語であるそうです。「abico」はラテン語で「謙虚」という意味があり、企業として、常に謙虚な姿勢を忘れないようにという意図が込められています。また、顧客、従業員、取引先に親しみやすい社名にしたいと考えて、どこの国の人にも覚えてもらいやすい言葉であること、アルファベットの最初のABCを含むことで、常に先頭に立って歩む企業理念を表しました。
弊社は2011年に設立後、まもなく10年を迎えます。日本の衛生用品(大王製紙株式会社)、食品(カゴメ株式会社、エスビー食品株式会社)、健康用品(ピップ株式会社)、ベビー用品(ピジョン株式会社)の正規代理店として、品質の高い品物を輸入・販売する事業を行っています。
弊社の理念は、品質の高い品物とより良いサービスを提供することを通じ、お客様の抱えている問題を解決し、幸せを運ぶことです。また、ABICO社員である我々は日々共に成長し、出会った全ての人々に感謝し、尊敬し、社会に良い影響を与える企業として発展していくことを目指しています。
小林大使:今日初めて御社のオフィスを訪問しました。若い社員、特に女性社員が多いですね。よい人材を採用し、育成するという観点から、どのような取り組みをしておられますか。
U:従業員の多くがアルバイト販売員から仕事を始めて、正規社員として採用されています。モンゴルでは販売の仕事に携わるのは女性がほとんどです。このことが女性社員の多い理由の一つです。女性社員の中には部長にまで昇進している者もいます。共に成長するということは弊社の理念のひとつなので、経営者として私はそのための環境を作ることを日々考えながら仕事をしています。弊社の取り扱っているベビー用品を使ってみたところたいへん良かった、他の母親・子供たちにも是非使ってほしいという思いから弊社への入社を志す女性がいるのも、女性社員が多い理由の一つだと思います。
人材を採用する時は、専門知識をどれだけ持っているかということではなく、明るい心、成長を求める熱意を一番重視しています。明るい心は自分自身を輝かせるだけでなく、周りの人々を照らすことができると思います。また、成長しようという意識が高い人は、学校に行かなくとも、向上が速く、他の社員に対して勇気と素晴らしい影響を与えることができると思います。
人材育成に関しては、毎月教育、トレーニングなどを行って、社員一人一人が持てる力を100%発揮でき、将来自分が一層輝けるように自己投資できる環境を整備することが私の一番大事な仕事だと思っています。社員が幸せを感じて働ければ、その家族も幸せになるし、もちろんお客様にもその思いと行動は届きます。そして最終的に会社の実績も向上します。全ての成功は社員一人一人の満足度から始まると強く信じているので、社員が成長できるよう様々なことを考えて実行しています。例えば、営業時間を変更できる事務所については、半年前から勤務時間を7時30分~16時30分としています。もちろん社員と話しあって決めたことです(笑)。ウランバートル市の朝の渋滞が酷いので、これを避けて出勤し、始業後30分を成功に役立つ読書の時間に当てることにしたわけです。社員は非常に満足しています。
U:組織を率いるリーダーとして必要なことは何か、大使からアドバイスをいただいてもよろしいですか。
小林大使:どんなに優秀な人であっても一人で出来ることは限られていると思います。しかし組織として個々人の能力を相乗的に発揮できるようにすれば、大きな成果を上げることができるでしょう。前回の対談の際、ホスエルデネAND GLOBAL社長から「リーダーが持つべきもっとも重要なこと」と問われ、私は「様々な課題に対処するに当たって、大局を把握することが重要なことの一つ」と答えました。今回はオーガンツェツェグ社長から「組織を率いるリーダーとして必要なこと」との質問です。私自身自戒の念も込めて「組織を構成する個々人の良いところを引き出すことが必要なことの一つ」とお答えしたいと思います。
小林大使:ABICO社は、2011年の創業以来、精力的に事業を拡大し、大手スーパーにも商品を卸し、今では地方でも名を知られるようになりました。特にそれまでモンゴル人の生活には馴染みのなかった野菜ジュースをモンゴルに定着させた功績は大きいと思います。野菜ジュース全般のことを「KAGOME」と思っているモンゴル人もいるようです。どのようなマーケティング戦略を用いたのでしょうか。
U:私が日本に留学している時に、父が日本を訪れました。その時に父がカゴメジュースを飲んで、その新鮮な味に感動し、モンゴルにこの野菜ジュースを輸入できれば、モンゴル人の健康に貢献できると言ったのが発端です。そこから5年後に正規代理店として、カゴメジュースをモンゴルに輸入することができました。私は、販売開始日から多くの人々の野菜不足を補い、健康に貢献したいと考えていました。全てのマーケティング活動がその視点から生まれています。カゴメジュースをモンゴルで販売し始めてから間もなく8年になりますが、その中で何度か売り上げを大きく伸ばす時期がありました。いずれも商品が売れない、日本に過剰な仕入れ注文をした等の厳しい状況の後のことです。そうした困難に直面して、社員みんなで力を合わせて、改善会議を開き、どんなマーケティングをするのか、お客様に商品の良さをいかに説明するのかを真剣に議論し、役割分担をして売り上げ改善に取り組みました。改善会議の名前は「お客様の健康に貢献できるカゴメジュース(会議)」です。朝から晩までずっと同じマーケティングプランを議論し続けることもよくあります。ABICO社員がこれまでに学んだことが大きく2つあり、1つ目は、壁にぶつかっても前向きな気持ちで力を合わせれば明るい未来が待っているということ、2つ目は、マーケティング戦略の策定に当たって優先すべきは財政面ではなく、お客様の幸福の実現であるということです。財務面で厳しくとも、お客様の幸福を考えることによって、商品をご愛顧いただける強力なサポーター(ユーザー)をより多く獲得することが可能です。
小林大使:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、ABICO社のビジネスにどのような影響を与えましたか。困難だったこと、逆にCOVID-19の流行後にヒットした商品などありましたら教えてください。
U:COVID-19が流行し始めてから暫くの間は売り上げが少し落ちました。勿論、そのような状況が長く続くようであれば会社の存続に関わるので、2020年の年末に、2021年をみんなの力で明るい年にするべく販売計画を練り直しました。
敢えて売り上げ目標を高く設定し、暗く後ろ向きな気持ちを一掃するために明るい将来の夢について話し合い、できることから実践し始めました。2021年の6月の上半期の売り上げ実績を見ますと、全てのブランドについて販売目標を達成することができ、ABICO社の歴史上最高のパフォーマンスを示すことができました。社員の前向きな気持ちがどんな状況でも大きな力になることが証明されたと思っていますし、社員一人一人が心を一つにして頑張った成果であると自負しています。COVID-19で在宅勤務の形態が広がり、自宅で料理をし、食事を楽しむ方の数が増えました。これによって、簡単に作れるカレー、味に変化をもたらすラー油等の食材がヒットしています。
小林大使:モンゴルの消費者の傾向をどのようにお考えですか。日本の消費者の傾向との違いはありますか。そのような差異を考慮して日本製品の輸入販売に当たって気を付けていることはありますか。
U:モンゴルの消費者の多くは、日本車は別として、日本の具体的な商品については知らないのが現状です。日本に行った経験がある人であれば、ある程度日本の商品について知っていますが、そうでない人たちは全く知らないと言っても過言ではありません。
新しい商品をモンゴル国内に紹介する時に心がけていることは、その商品を使った時の使いやすさと心地よさ、そしてお客様が直面している問題をいかに解決できるかを説明することです。例えば、モンゴルの食文化にあまり馴染みがないカレーをお客様に紹介する時には、カレーを賞味した時のピリッとしたアクセントの効いた温かさ、幸福な気持ちを率直に伝えることを大切にしています。これまでモンゴル国内で利用されていなかった商品を普及させることがABICO社の役割であると考えていますが、その中で新しい商品を反復して使うお客様を増やしていければと考えています。日本の商品の品質はとても高いので、一度使ったモンゴル人のお客様にクチコミで宣伝していただくことも非常に多く、効果的です。日本の製品を輸入販売する時に一番気をつけていることは、日本で愛情を込めて生産・製造された品物をABICO社員が尊敬の念を持って、お客様の手元まで丁寧にお届けするということに尽きます。
小林大使:人口335万というモンゴルの市場規模、モンゴルの置かれた地理的環境等を考えると、日本企業の中には輸出しても費用対効果が薄いと考えるところもあるかと思います。御社は、取引先である大手日本企業の信頼と関心を得るべくどのような努力をしているのでしょうか。
U:どの国のどのような企業であっても、相互信頼こそがビジネスにとって最重要であると考えます。お互いの企業理念を尊重しながら、約束を守ることで信頼は育まれていくと確信しています。ABICO社はまだまだ若い企業なので、経験のある日本の企業から大変多くのことを学んでいます。日本の企業は商品を販売して終わるのではなく、そのアフターケアをとてもよくします。売り上げ分析、マーケティング企画、モンゴル人消費者のニーズ調査等、実に細かいところまで協力し、アドバイスをしてくれますので、日本企業をパートナーに持てることをとても有難く思っています。日本で人気を博する商品の背景には、商品を開発・生産・販売する企業の明確な理念があると思います。だからこそ、お客様のご愛顧を得ることができるのだと理解しています。私たちABICO社員もその企業(ブランド)の理念をしっかりと理解し、尊重していかねばなりません。日本企業を見習い、少しずつであっても日々成長を続けることを心がけています。
小林大使:これまで、女性社長ならではの視点で日本製品をモンゴルに紹介されてきましたが、今後どのような夢をお持ちでしょうか。
U:今後も、お客様が使って満足する、喜びを覚える、そして抱えている問題を確実に解決できる品質の高い商品をたくさんモンゴル国内に紹介していければと思います。
U:大使から私たちに期待されることは何でしょうか。
小林大使:ABICO社は、品質の高い日本製品を輸入し、モンゴル国内で販売することによって、モンゴル国民の日本についての理解を促進する役割を果たしていると思います。今後も、日本人のスピリットの結晶である日本製品を数多くモンゴル国内に紹介して貰えることを期待しています。更に、オーガンツェツェグ社長のように日本を良く知るモンゴル人経営者が、日本のパートナーと協力しモンゴル国内でモンゴルの強みを生かした製品を開発・生産し、日本の市場に輸出できるようになれば、日本におけるモンゴルについての理解を深める上で有益であると期待しています。