ゲレル社長:モンゴル産の肉を吉野家のネットワークを介して輸出できるよう努力します

特集
bolormaa@montsame.gov.mn
2022-02-11 09:54:12

モ日外交関係樹立50周年 記念に向けて (シリーズV)


    弊紙「モンゴル通信」は、2月24日に迎えるモンゴ ル・日本外交関係樹立50周年の記念に向けて在モンゴル日本大使館と協力の下、「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」をテーマに、両国のビジネス分野で活躍し、日本で学んだ経験を持つ企業家をシリーズで 紹介している。なお、今回のシリーズでは日本留学未経験であるにも関わらず、日本一流のファストフードチェーン吉野家のフランチャイズ権を得て、先月首都ウランバートルで第一号店を開店したばかりのUBグル ープ社の子会社リッチ・フード・サプライのオソルフ ー・ゲレル社長と小林弘之日本大使との興味深いインタビューをお届けする。

   ゲレル社長は中国留学中、吉野家の食が大好物だったと、帰国後モンゴルでの開店を5年も待っていたが、自らフランチャイズ権の取得に挑戦することに決めたと笑顔溢れて話す。同社はモンゴル産の「羊肉」を使ったメニューを世界で初めて提供したモンゴル第一号店であるが、 今後5年以内に15店舗のオープンが目標という大志を抱く。



小林大使:吉野家モンゴル第一号店の開店、おめでとうございます。開店から2週間が経ちました(対談時)が、お客様の反応はいかがですか。

 

ゲレル社長:ありがとうございます。いろいろ苦労がありましたが、日本で最も知名度の高い、No.1のファーストフードチェーンレストランをモンゴルに開店することができたことをたいへん嬉しく思います。開店からまだ2週間ほどですが、モンゴルのお客様には満足いただけているようです。また、売り上げも開店前に予想した数字の2倍強と好調です。やはり看板メニューの「牛丼」が最もよく売れています。

 

小林大使:吉野家は日本で最も有名なファーストフードチェーンです。日本に滞在経験のあるモンゴルの多くの方が、吉野家の牛丼を食されたことがあると思います。私は随分前から、牛丼はモンゴルで受け入れられると思ってきましたので「やっと来てくれた!」と大変喜んでいます。ゲレル社長はどのような調査に基づき、吉野家の牛丼は売れると確信されたのでしょうか。

 

ゲレル社長:私たちが事前に実施した調査結果を見ますと、日本を含む東アジア及び東南アジアの国々を訪れたことのあるモンゴル人の多くが「吉野家」を知っており、吉野家の味をたいへん気に入っていることが分かりました。これを踏まえて、私たちは吉野家ブランドをモンゴルに誘致しようという決意をし、2年以上の期間を費やして、モンゴルのファーストフード市場についての調査、モンゴルの消費者の行動及び志向についての調査、サプライチェーンについての調査等、数多くの調査を行いました。そして、ファーストフードに関しては、より健康的で良質なものが求められていることを認識しました。

この2年間に私たちは、日本と中国で2か月間従業員を研修させることを含め、吉野家の伝統的な味と品質をモンゴルで提供するための試験・研究・改良を重ねてきました。

私の考えでは、吉野家の食は単に日本人の食という域を超え、どの国の人々にも日々の食足り得る健康面で配慮された食だと思っています。モンゴルにおいても米と肉は毎日の食卓に欠かせない万人受けする食材であるので、吉野家の食はあらゆる年齢層に受け入れられると確信しています。

 

小林大使:(株)吉野家ホールディングスと交渉してフランチャイズ契約を締結するまでの間で最も苦労したことは何ですか。

 

ゲレル社長:私たちからのアプローチに対して、(株)吉野家ホールディングスは直接的に「ノー」とは言われませんでしたが、モンゴルの市場に関心をお持ちではないことが感じ取れました。それでも私たちは諦めることなく要望を伝え続けた結果、ついに(株)吉野家ホールディングスの経営陣と日本で面会できるアポイントメントをいただくことができました。モンゴルの市場自体は小さいものの大きな可能性があることを理解していただき、このような名誉あるブランドのモンゴルにおけるフランチャイズ権を得ることができた次第です。ちなみに、これまでにモンゴルからは約50社の企業、約30名の個人が(株)吉野家ホールディングスにコンタクトしてきていたと聞いています。

 

小林大使:現在では、コンビニエンスストア、ファーストフード店など世界的な規模で展開する「フランチャイズ」という事業形態がモンゴルでも増えてきています。ほんの数年前までは、人口が少なく、市場規模が小さいモンゴルではフランチャイズは難しいと言われていました。モンゴルにおけるフランチャイズ展開の可能性をゲレル社長はどのようにお考えですか。

 

ゲレル社長:そうですね、確かに大使がおっしゃるように、数年前まではモンゴルは市場規模が小さく、フランチャイズビジネスの成長は難しいというのが通説でした。しかしこの数年で様相はかなり変わってきています。モンゴルにおいて世界規模及びアジア規模の大きなフランチャイズビジネスが急速に拡大してきています。

この背景には、モンゴル経済の成長、比較的高い人口増加率、新しいものを柔軟に受容する若い世代層の拡大、旅行・留学・就労等によって世界を経験した人々の増加、モンゴル人の生活様式の変化といった様々な要因があると考えています。私たちウランバートル(UB)グループ社は、日本のフランチャイズビジネスをモンゴルに定着させる事業に携われていることをたいへん嬉しく思っています。モンゴルにはフランチャイズビジネスを発展させられる可能性があり、そのノウハウやスタンダード手法を浸透させることによって、国内のサービス産業の文化やスタンダードが短期間に世界レベルに到達する可能性を生み出します。そのため、フランチャイズビジネスで得た知見を他の企業とも共有し、情報交換をしていくことが、モンゴル国内のビジネス全体にとっても重要であると信じています。

 

小林大使:味やサービスの質を良い状態に保つために、取り組んでいることを教えてください。

 

ゲレル社長:ファーストフードレストランのビジネスにとって、味とサービスの質を保つことはとても重要です。私たちは、吉野家の伝統的な味とサービスの水準を確保するために、絶えず学習するという手法を用いています。また、他のレストランにはない122年の歴史あるフランチャイズビジネスのノウハウに則ったメニュー開発、社員教育、衛生環境整備を実施しています。

 

小林大使:吉野家モンゴル店は日本にない「羊丼」を提供されています。何処の店に行っても安心して同じものを食べることができるということがファーストフード店の良いところの一つだと思います。その観点からすると「羊丼」は大きなチャレンジではなかったかと思います。このチャレンジを(株)吉野家ホールディングスは直ぐに認めてくれたのでしょうか。

 

ゲレル社長:私たちにとって最も大切なことは、日本と同じ味、品質及び水準をモンゴルのお客様に提供することです。しかしその一方で、その土地の人々の特性に合致した食を提供することも重要です。(株)吉野家ホールディングスは、モンゴル産の羊肉を使ったメニューを提供することを歓迎してくださいました。私たちは、世界で初めてモンゴル産の羊肉を使った料理を日本の品質水準で提供していることをとても誇らしく思っています。世界でも規模の大きいファーストフードチェーンのメニューにモンゴル産の羊肉を使った料理が掲げられていることは、モンゴル産の肉の品質を国際的に認知して貰う上で大きな一歩だと考えています。これから先、私たちはモンゴル産の肉を吉野家の国際的ネットワークを介して外国に輸出できるよう飽くなき努力を続けていきます。私たちのオリジナルメニュー、羊丼もお客様に好評です。ぜひ一度、日本の皆様にも召し上がっていただきたいです。新型コロナウイルス感染症を巡る状況が改善し、モンゴルを訪問される世界中の吉野家ファンに、モンゴルの羊丼は美味かったと言っていただけることを願っています。

 

小林大使:総じて外食産業は新型コロナウイルス感染症の影響で大きな打撃を受けましたが、一方でテイクアウトの需要が伸びているとも聞いています。この難しい状況の中で、吉野家モンゴル店は何に最も留意されているのでしょうか。将来の目標とともに教えてください。

 

ゲレル社長:その通りです。新型コロナウイルス感染症の影響で、観光及びサービス産業部門、特にレストランビジネスは大きな打撃を受けました。しかし、世界の人々が新型コロナウイルス感染症と闘いそして共存の道を模索しながら懸命に仕事をしている中で、私たちもこの環境に適応し事業を行っているところです。私たちは、今後5年以内にモンゴル国内に15店舗をオープンします。もちろん私たちは、技術の成果を駆使して、この感染症の状況に適用しながら事業を行えるよう計画しています。また、私たちはまもなくデリバリー(配達)サービスを開始するところであることをこの機会にご紹介させて頂ければ幸いです。

 

小林大使:吉野家モンゴル店の実現に至るまでの過程で日本及び日本人についてどのような印象を持たれましたか。また、日本とビジネスをする上でモンゴルの企業家たちに何かアドバイス出来ることがあればお聞かせください。

 

ゲレル社長:日本人の印象についてあれこれ述べるのではなく、先ず私たち自身が日本人から多くのことを学ばねばならないと考えています。私たちは日本のように発展していくために、日本人のように丁寧にかつ一生懸命働く必要があります。私たちは吉野家というフランチャイズ事業を通して、日本人の誠実さと勤勉さを学ぶことを毎日意識して仕事をしています。

 

ゲレル社長:大使にモンゴルの吉野家の牛丼を味見していただきましたが、ご感想をお聞かせください。

 

小林大使:私は、東京の外務省に勤務をしている時に、1時間の昼休みに手軽に昼食を摂れるところとしてしばしば国土交通省内の吉野家のお世話になっていました。役所内の食堂ですので、注文した料理をカウンターで受け取った後、飾り気のない広いホール内のテーブルでいただくのですが、食事はその場の雰囲気も大切です。吉野家モンゴル第1号店の牛丼は私が知る吉野家の牛丼と遜色ありませんが、雰囲気は吉野家モンゴル第1号店の方が遥かに明るく、またこじんまりしたスペース感によってより心地よく食事を楽しむことができました。昼休みを利用して私の職場(大使館)から吉野家モンゴル第1号店に赴くのは厳しいので、大使館の徒歩圏内に新しい店舗がオープンするまでは、デリバリーを利用したいと思います。

 

ゲレル社長:モンゴルに吉野家がオープンすることの意義は何だと思いますか。

 

小林大使:ウランバートル市内には日本食レストランを含め日本食を提供するレストランが数多くあります。これらのレストランは日本の食文化をモンゴル国民の皆様に伝えるという役割を果たしてくれています。吉野家がモンゴルにオープンすることによって、より気軽に多くのモンゴルの皆様が日本の食文化の一端に触れることができると考えています。また、当地において日本と同じ食を同じ品質とサービスで味わうことができますので、日本車等の品質の高さを良くご存じのモンゴルの皆様に、食を通じた日本のサービスの水準も評価いただける契機となると期待しています。そして、ゲレル社長も言及されたように、吉野家モンゴル店の成功が、モンゴル国内のビジネス全体の発展に貢献するよう、更に日本の投資家・企業のモンゴルに対する関心を高めるよう願っています。

 

ゲレル社長:日本大使館は、日本とモンゴルのビジネス交流を支援する上でどのようなお考え・計画をお持ちですか。

 

小林大使:民間のビジネス交流は、日本、モンゴル双方のビジネス関係者の間で互いに協力したい、しようという意思の合致が必要です。ビジネスの主体はあくまで民間であり、厳しい競争の中にあるからこそ、より効率的でより質の高い事業が展開されるものと考えています。日本政府もモンゴル政府も出来ることはそのようなビジネス交流が促進される環境を整備することに限られています。私は、当面は様々な形態による日本企業のモンゴルへの進出が、両国の経済の発展にとって重要であると考えています。この観点から①モンゴル国内のビジネス環境の整備の面でモンゴル政府と協力すること、②パートナーとなり得るモンゴル企業とのマッチ・アップが実現するよう支援すること、③特に日本の企業関係者に対して、変化を遂げるモンゴル社会の現状と可能性についての情報発信を行うことに力を注ぎたいと考え続けてきています。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の流行によって、これらをなかなか思うように実施できていません。モンツァメ通信社の協力を得て実施しているこの対談を通じて、日本及びモンゴルの読者の皆様に両国のビジネス交流についての関心を高めていただければ幸いです。