小林弘之在モンゴル特命全権大使:社会主義時代を経験した私にとって、いまのモンゴルは天国以上です。コロナ終息後の準備を今から、何でも相談事をお寄せください

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2020-07-13 10:01:42

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界規模になっている現在、モンゴルにもさまざまな影響が出ている。小林大使が昨年暮れに着任されて半年余りが経ったいま、モンゴルへの思い、今後の課題や期待などを率直に語っていただいた。

 大使が過去に参事官として勤務されていた頃と比べて、モンゴルはどう変わったでしょうか?

 ――私が次席として勤務していたのは、2005年から2008年でした。しかし、私が最初に訪れたのは社会主義時代の1985年から89年でしたので、2回目はずいぶん発展していて天国のように思った(笑)。初めてモンゴルで勤務される外国の大使たちとお話しすると、時々生活上の苦労話を聞くことがあるのですが、社会主義時代を経験してきた私にとっては、今のウランバートルは天国以上です(笑)。道路整備も進んでいるし、高層ビルが増えてすっかり大都会に。街中で自分がどこにいるか分からないくらいです。

 いま、コロナ感染の影響で日本とモンゴル間では何が一番困った状況でしょうか?

 ――外国からの入国規制・禁 止は多くの国で行われていますが、一番困っているのは、やはり自由に国と国との間を往来できなくなっている事です。例年、この時期には日本から多くの方々が来られる。国会議員の先生方も今夏は来られず、非常に残念です。議員交流は両国の相互理解・友好関係を深める上でとても重要なことですから。  

 一方、モンゴル在住の在留邦人の中には、日本に一時帰国されたきりモンゴルに戻りたくても戻れない状況が続いる方もたくさんいます。物流にも大きな影響が出ています。船・鉄道による輸送はなんとか機能していますが、飛行機での輸送が滞っている。また、大勢の人が一堂に集まる事ができないため、予定していた行事がどんどん遅れるという困難に直面しています。

 日本人会も商工会の集まりも未だに開かれず延期ですよね。

 ――そうですね。私が大勢の在留邦人の皆さんとお目にかかったのは、今年1月の賀詞交換会の時だけです。

 ところでこの時期、教育病院の運営は順調でしょうか。日本からの支援などは?

 ――教育病院は正式にモンゴル国立医科大学付属日本モンゴル病院と改名されました。教育 病院と言うと教育する場のように思われ、利用者になじみにくい。もっと身近な存在で広く利用してもらうために改名したようです。昨年6月に河野外務大臣 (当時)がモンゴルを訪問した際にオープニングセレモニーが行われ、昨年10月に開院しました。ところが、今年の運営経費や設備投資などで予算不足状況が発生してしまいました。幸い、私がフレルスフ首相などへ表敬訪問する前に病院関係者やJICAから事態の報告を受けたので、お会いした際にその問題を取り上げました。また、 モンゴル国内でメディアが同問題を報道していたこともあり、モンゴル政府の早い改善措置につながったと思います。加えて、世界銀行からの融資や日本政府からの10億円の無償資金協力の一部を活用し、必要な機材等を整備する目処が経ちました。来年の予算については、今回の経験を基にモンゴル政府が予算措置を進めると思いますので、今後の運営については心配ないと思っています。

 日本モンゴル病院とは直接関係ありませんが、モンゴルの新型コロナウイルス感染症対策に関して、モンゴルは治療薬としてアビガンを活用しており、その効果を高く評価しています。

 新ウランバートル国際空港は7月開港の予定が10月に延期されるようですが、その理由は?また、 日本企業が運営にあたることで、 どんな期待を持たれますか?

 ――延期の理由のひとつは、コロナの影響で長期にわたって人的往来が妨げられていることです。 この新空港には最先端の機材が導入されますが、据え付けをする専門家、据え付けた機材についてのトレーニングを施す専門家を外国から呼べない事が大きなネックとなっているようです。また、国際便が止まっている中で開港するのが適切かどうかという考慮もあったと思います。ですので、定期便が飛ぶようになることや完全な稼動の準備のためなど、総合的に考えた結果の判断として、開港が延期されるのはやむを得ないことだと思います。運営面では成田空港や羽田空港も携わっていますので、開港後は日本が誇る一流のノーハウやサービスが提供されることを大いに期待しています。

 これに関連して、観光立国を唱えるモンゴルですが、観光発 展のためのモンゴル政府の課題は何だと思われますか? 

 ――モンゴルはとても素晴らしい国です。ただ、年間を通して観光客を惹きつけるものが多くない。寒い冬期に楽しめる魅力ある観光開発ができると良いと思います。観光インフラも、 道路、衛生面、航空便などまだ改善の余地があると思います。 また、高い航空運賃も課題の一つです。航空運賃が下がり、より多くの観光客がモンゴルを訪問し、モンゴルでお金を落とすような施策を推進してもらうことが、経済面だけでなくモンゴルを世界に知ってもらう上でも 効果的だと思います。

 モンゴルの総選挙が終わりました。この結果についての感想と、新政権への要望と期待はいかがでしょうか?

 ――なかなか選挙結果を予想するのは難しいですが、特にモンゴルは難しい。モンゴルでは 「選挙予想は、選挙の翌日にせ よ。」と言われているくらいですから(笑)。今回は、人民党が勝つという声が多く、その通りになりましたが、これほど圧勝すると予想していた人はほとんどいなかったのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症の影響で経済が落ち込んでいる中で、引き続き人民党が政権運営を負託されたということは国民の期待がそれだけ大きいということ。大使館としても次期政権と協力し、経済の再生に向けて協力していければと思っています。

 2022年に日本とモンゴルは外交関係樹立50周年を迎えます。 日本とモンゴルで進めるべき課題はなんでしょうか。日本・モンゴル経済連携協定の現状は? また、民間交流の面では、どんなことに期待されますか?

 ――日・モ経済連携協定 (EPA)は2016年に発効しました。この協定が結ばれたら貿易が自動的に伸びるという誤解がモンゴル側の一部にありますが、EPAはお互いの市場にアクセスしやすくする環境を整備するという協定です。ですので、日 本の市場で本当に売れるものを作らないと、日本の消費者の関心は掴めない。より良いモノを作る事が最も大事なことです。 このため「日本では何が売れるのか」、「日本では何が必要とされているのか」をモンゴルの中小企業を対象に、ノーハウをアドバイスしてあげてほしいと日本商工会の皆様にお願いしています。こうした交流はお互いのビジネスに"発見"をもたらすと期待しています。これまでは,モンゴルの鉱物資源や農牧畜資源の開発に皆の注目が集まっていたと思います。しかし, 今の時代、新しいビジネスに期待したい。モンゴルの若い世代には、理数系などで非常に有能な人が多い。特にITに強い。私はモンゴルの若い起業家たちの会社を訪問し、彼らと話し合う機会を持つよう心がけていますが、日本の大学を出ている若者も多い。中には、ITを活用し携帯で担保なしで一定額を借りられる消費者金融ビジネスなどで成功し始めている人もいます。 電通もモンゴルのIT人材の活用を始めています。日本の皆様には、これまでと違ったモンゴルの可能性に是非注目していただければと思います。

 モンゴル側から言わせれば、 もっと日本企業に来てもらいたい。  

 ――これまでも日本企業のモンゴルへの関心は高く、特に鉱 物資源開発や石炭火力発電所など、日本企業も投資の準備を し、対話もしてきたと思います が、モンゴル側の様々な事情で 最後はうまくいかなかった。こ のような事例は、日本企業にと っては大きなマイナスとなっています。今、注目しているのは オヨー・トルゴイ銅金鉱山の開 発がうまくいくかどうか。外国 企業と信頼関係が築け、お互い が利益を得られるという実績をモンゴルが見せることができれば、日本企業の関心も戻ってくるでしょう。

 現在、モンゴルに留まっている日本人は少なくなっていると思いますが、日本人会の名誉会長として、メッセージをお願いできますか。

 ――コロナは必ずや終息するものと思いますが、まだまだ先行きが不透明です。ビジネスをされている方々は苦しい状況が続いていると思いますが、今からコロナ終息後を見据えて準備をしていただきたい。私として も、日本とモンゴルの経済関係を発展させていきたいと思いま すので、ご相談やご希望があれば、日本からでも遠慮なく大使館に連絡していただきたい。インターネットを通じてテレビ会議も簡単に出来るのですから。

 最後に、個人的にモンゴルで是非やってみたいことは? 馬頭琴などの趣味はいかがですか?

 ――馬頭琴は昔、少しは習ったのですが早々にギブアップ(笑)。本当に難しい。外務省ではモンゴルの専門家でありますが、これまではモンゴル語よりも英語で仕事をする機会の方が多かったので、第一にはモンゴル語がもっと上手になりたい。第二は、 社会主義時代には自由に馬に乗れなかったし、次席として勤務した時もなかなかその機会がなかったので、今回は乗馬をやりたい。それから、次席の頃は、 大使が外回り、私は館内のマネジメントという役割分担でしたので、これまで方々にでかけるチャンスが少なく、まだ7、8県しか行けていません。できれば今回は全アイマグ(県)を廻ってみたいですね。


  色々なお話を、ありがとうございました。

 ※取材を終えて:

 モンゴルの若い起業家に向けるあたたかい眼差しが印象的だ。またこの困難な時期、日本人に呼びかける寄り添いの気持ちが有難い。こうしたお人柄が両国の架け橋となって信頼を高めていくに違いない。一刻も早いコロナの終息が待たれるところだ。